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クレンペラー&アラウ ~ ショパン/ピアノ協奏曲第1番
ショパンのピアノ協奏曲をアラウのピアノで聴きたい人は少ないだろうし、さらにクレンペラーの指揮で聴きたい人はなおさらいないはず。
アラウは、ショパンのピアノ協奏曲第1番をインバル指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の伴奏で、1970年に録音しているが、それ以前の1954年にもクレンペラー指揮ケルン放送交響楽団の伴奏で弾いている。
アラウ自身は、このクレンペラーとの演奏を、ワルターと共演した時と同じくらい優れた演奏だったと回想している。このライブ録音は歴史的録音として、Music & ArtsからCDがリリースされている。
ジャケットのアラウの写真は、50歳前後のものだろうけれど、なかなかダンディ。

Arrau Plays Chopin: The Two ConcertosArrau Plays Chopin: The Two Concertos
(2005/05/31)
Frederic Chopin

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このCDには、1950年のNYで演奏したショパンのピアノ協奏曲第2番のライブ録音が収録されているが、これは音が非常に悪くて、あまり聴けたものではない。
指揮はフリッツ・ブッシュ。ヴァイオリニストのアドルフ・ブッシュの兄で、彼も弟と同じように母国ドイツでナチスが台頭したために、故国を離れた音楽家の一人だった。

この時に初めてショパンの第1コンチェルトを振ったクレンペラーは、リハーサルの時に、楽団員に「諸君、ショパンとは素晴らしい作曲家だったのですね」と言ったとか。
クレンペラーが初めて指揮するショパンの第1番協奏曲なので、この曲を何度も弾いてきたアラウはいろいろ助言はしたらしい。
アラウはショパンをサロン音楽的な作品ではないと考えていたので、一体どういうアドバイスをしたんだろう。

アラウとクレンペラーが共演するのはこれが初めてではなくて、1930年代にベルリンでシューマンのピアノ協奏曲を演奏したこともある。
まだ若かったアラウは、クレンペラーが自分の解釈を押し付けたので不快な思いをしたと回想していたそうだ。
しかし、その後アラウが米国でキャリアを積んでからは、ベートーヴェンのピアノ協奏曲のチクルスを共演したり、このショパンのコンチェルトを一緒に演奏したりと、個性の強い音楽家同士だが意外と相性は良かったのかもしれない。
2人の音楽のつくり方はちょっと違う気はするけれど、ドイツ音楽の得意な2人が共演したらその違いを超えてともに良い音楽を生み出すことができるのだろう。

                                

クレンペラーとアラウが演奏するこのショパンのピアノ協奏曲第1番は、巷でよく弾かれるショパンとは全く違う重厚なドイツ音楽的ショパン。
第1楽章冒頭から、これからベートーヴェンかブラームスか(どちらでも良いけど)を演奏するのかと思うほど重々しく、一体なにが始まるのだろうかと思わせるオーケストラの総奏で始まる。
これにアラウの情感のこもった力強く雄弁なピアノが拍車をかけている。
アラウの弾くショパンは骨格のしっかりした演奏で、脆さ、儚さといった弱さや感傷は全くない。ルバートはたっぷりかけて、山あり谷ありの起伏も大きく、ドラマティックにこの曲に込められた情感を歌っている。ゆったりと歌うところは、高音の澄んだ響きがとても美しい。
伴奏ももちろん、アラウのピアノと同じような方向。力強く厚い響きでこちらもドラマティックな演奏だけど、ピアノのテンポが速いのに合わせて、スピード感と躍動感も十分。

第2楽章もアラウのピアノは歌心がいっぱい。第1楽章よりは穏やかで、ゆったりと柔らかな弱音で弾いてはいるけれど、相変わらず芯がしっかりしている。
透明感のある暖かみをおびた音色で弾く旋律からは、何かに対する憧憬のような夢をみているような雰囲気も漂ってくる。

第3楽章は、アラウのピアノは躍動感がでて大分軽やかにはなっている。でも、相変わらずタッチは明瞭で力強さがあり、アクセントや抑揚も良く効かせて、本当に良く歌うピアノ。
この録音は古いモノラルのライブ録音にしては、ピアノの音がかなりクリアで前面に出てきているせいか、ピアノの表情がとてもよくわかる。

アラウが弾くショパンのコンチェルトの特徴は、ちょっと重ためのリズム感、独特のマルカート気味の強めのタッチに、大きな抑揚とアクセントの効いた歌いまわし。
このショパンは、ブラームスの音楽にある構造的な重みを少し軽くし、揺れ動く感情をストレートに強く歌っているとでもいえば良いのか...。
後年のスタジオ録音の方がより穏やかな弾き方になっているので、面白さは減るけれど、音はそちらの方は良いし、聴きやすいとは思う。

アラウが本領発揮するのは、スタジオ録音よりもライブ。
このライブでのアラウはかなり気合が入っているせいか、とても生き生きとして、ピアノを弾くのを心から楽しんでいるような開放感がある。
伴奏もアラウの弾くショパンに良く合った重心の低いドラマティックな演奏で、やっぱりクレンペラーとは相性が良いように聴こえる。
この演奏が良いか悪いかはともかくとして、こういうドイツ音楽的ショパンを聴くと意外性があって楽しい。サロン音楽風のショパンの演奏に飽きた人は、たまに聴くと新鮮で面白いと思う。
ショパンらしさをこよなく愛する人は、これは何か違うだろうと違和感を感じるのがオチなので、聴かない方が良いでしょう。
このコンサートを聴きにいった人たちは、クレンペラーとアラウがどういうショパンを演奏するのか興味深々だったのかもしれない。


このライブ録音について、『アラウとの対話』(みすず書房)のなかで、著者のホロヴィッツはこう評している。

「興味深いことに、この時期のアラウによるもっとも刺激的な協奏曲のレコードはコンサートの録音で、1954年、オットー・クランペラーが指揮したショパンのホ短調協奏曲である。アラウは、スタジオ録音におさまっているときにはめったに聴かれないような率直な華麗さ、それに遊び気分すらみせて演奏している。男性的なパッセージ・ワーク、音符の薄いクライマックスをものともしない力強さ、堅固で明晰な構想、そして、不純物の混じらない持久力と安定性。そうしたものが、エリアフ・インバル指揮の1970年盤に比べて、より推進力に優れ、綿密すぎる追求は避けた全体像によって、補強されている。こうしたものすべてが、たいへん興奮を呼ぶ。」

tag : アラウ ショパン

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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