アラウ ~ ショパン/ピアノ協奏曲第1番 

2008, 12. 14 (Sun) 12:49

アラウがインバル指揮ロンドン・シンフォニー管弦楽団の伴奏でショパンのピアノ協奏曲第1番と第2番を録音したのは、1970年。アラウはこの時、67歳。

1954年にもクレンペラーとのライブ録音で第1番の方を弾いている。
今回は若きインバルの指揮なので、クレンペラーが指揮したときのような重厚なドイツ音楽的な演奏とは違っている。
クレンペレーとアラウが演奏するショパンのコンチェルトは、いくらドイツ音楽的なショパンが面白いとはいっても、度々聴くにはちょっと重い。

アラウはベートーヴェン、ブラームス、リストなどのドイツ系音楽の演奏では定評があるけれど、ショパンを弾くとなると、アラウの弾くショパン?と思われてしまいそう。
アラウは、"演奏家は自分自身を変身させて異なった世界に入る道すじを探すべきだ"という考えを持っていたので、決して○○弾きというスペシャリストであるつもりはなかった。
だから彼のレパートリーはかなり広い。(おかげで録音が多くてをCD集めるのが大変だけど)
アラウが弾くショパンではバラード第1番(これは名演だと思う)や第4番がとても好きだけれど、夜想曲(ショパン作品中で最高の音楽とアラウは言っていた)、ワルツも録音している。ショパンが大好きな人が聴いたら、やっぱり何かが違うのかもしれない。

このCDはPHILIPSから出ているので、音質は抜群に良い。
特にピアノの音が前面に出てきて、とてもクリア。透明感があり微妙な弱音のニュアンスまで鮮明で、響きも深く広がりもある。いつもながらPHILIPSで聴くアラウのピアノの音には惚れ惚れとしてしまう。

ショパン:ピアノ協奏曲第1番&第2番ショパン:ピアノ協奏曲第1番&第2番
(2005/06/22)
アラウ(クラウディオ)

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アラウが弾くショパンのコンチェルトは、若々しく感傷的ではない、とても穏やかなショパン。
透明感のある暖かみを帯びた音色には、ほのかな憂いや優しい感情がこもっている。
アラウのピアノは、感傷や感情に駆られる青年期の渦中にあるような音楽ではなく、過去の過ぎ去った青春を懐かしみをこめて回想しているような穏やかさと清々しさがある。

アラウの奏法はフレージングが明確で、マルカート気味のしっかりとしたタッチなので、曲の構造がくっきりと浮き出てくるような構築性があって明晰。
といっても、1音1音の細部まで考え抜かれたように表現されているので、シャープでさらっとしたタイプの音楽ではなく、情感がしっかりこもっている。人によってはしつこい感じがする表現かもしれないけど。
なによりアラウが弾くショパンのコンチェルトは、曲の隅ずみまで歌が浸み渡っているかのように、ピアノが良く歌っている。

第1楽章のアラウのピアノは、マルカート気味のタッチで粒立ちがとてもよく、ころころと転がるよう。
ピアノの音色には包み込むような柔らかさがあって、力強く弾いていても、どこかしらまろやか。
曲の隅ずみにまで細やかな表情をつけているので、ゆったりとしたテンポで全編を通じて途切れることなく歌が流れている。
弱音には儚げな優しさがあり、高音で弾く旋律は瑞々しい美しさがあり、左手のバスの深い響きが穏やかな落ち着きを感じさせる。
大小さまざまな起伏があるし、音色やタッチも頻繁に変えているので平板になることなく、時にテンポが速くなり、溢れてくる感情を押さえられないかのように、朗々とピアノが歌っている。

第2楽章のピアノの音色と響きと旋律の美しさは格別。
ピアノの深い響きのなかには、澄みきっているけれど包み込むような優しさ。
まるで深く穏やかな安らぎのなかで、夢見るような純真な心が歌っているようで、思わずうっとり。
この楽章のアラウのピアノは、天使のように優しく美しい。

第3楽章も、テンポは相変わらず速くはない。羽のような軽やかさはなくとも、1音1音を粒立ちの良いタッチで力強く弾き、フレーズも明確。ポンポンと弾むような躍動感もあって、小気味良い切れ味がある。
この楽章でも、1つのフレーズに細かな起伏をつけているので、表情の変わり方がとても面白い。
ここでもピアノがよく歌っていて、本当に歌声が聴こえてきそうなくらい。
67歳のピアニストなのに、どうしてこんなに楽しく美しく歌えるのかと不思議なくらい。

第1楽章~第3楽章までテンポもあまり変わっていない。楽章ごとに性格の違いはあるけれど、陰影が少なく色調が似ているし、強弱や濃淡などのコントラストがやや弱いとは思う。
それでも、音色と響きの美しさは素晴らしく、なによりゆったりとした流れのなかで、いろんな表情見せながら、朗々と歌うピアノがとても素敵。

第2番のコンチェルトは曲想がやや暗めということもあって、アラウのピアノも陰影が強くなっている。
感傷的では全くないけれど、底流にしっとりとした哀感が流れていて、いろいろな感情が交錯しているような揺らぎの多い弾き方。哀感たっぷりに歌う流麗な第3楽章が特に印象的。
第1番、第2番の両方とも聴いていると、なぜか森のなかを流れる川の澄み切った水が、淀みなくたゆたゆと流れているかのようなイメージが沸いてくる。

アラウが弾くショパンのコンチェルトは、感傷や激情に揺れ動いたり、軽やかで華麗なショパンとは違う。
あまり一般的に好まれる演奏ではないかもしれないけれど、アラウのピアノが好きな人にとっては、こたえられないくらい素敵な演奏だと思う。
アラウの弾くベートーヴェンやブラームスのコンチェルトは堂々とした風格があって素晴らしいけれど、このショパンのコンチェルトはそれとは違う魅力がある。これにはまるとなかなか抜けられなくなってしまった。

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2 Comments

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2011/09/17 (Sat) 11:37 | REPLY |   

Yoshimi  

コメントいただいた方へ

”アラウ、ショパンのコンチェルト”というタイトルのコメント、どうもありがとうございました。

アラウが弾くショパンのピアノ協奏曲、ショパンらしくないと思うのですが、とても素敵ですね。
偶然このCDを入手されたそうですが、まさに一期一会。なにかのご縁があったのでしょう。

アラウの録音は、どれもアラウ独特の個性が煌いています。
彼のショパンの録音は多く、私はバラードやスケルツォが好きです。ワルツや夜想曲も人気がありますね。
同じく個性的なドビュッシー、ドイツ音楽らしい骨太な構築力とロマンティシズムのあるベートーヴェン、ブラームス、リストなど、他にも素晴らしい録音はいろいろあります。
機会があれば、いろいろ聴いてみてくださいね。

2011/09/17 (Sat) 12:56 | EDIT | REPLY |   

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