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カッチェン ~ ブラームス/ピアノ協奏曲第1番
カッチェンはブラームスのピアノ協奏曲を得意としていたが、第1番の録音は3種類残されている。
 1951年ブール指揮南西ドイツ放送交響楽団(ライブ録音)
 1959年モントゥー指揮ロンドン交響楽団
 1960年コンヴィチュニー指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団(ライブ録音)

ブール指揮南西ドイツ放送交響楽団の伴奏によるライブ録音(1951年)
1951年のライブ録音にしては、音はクリアで分離も悪くなく、高音はわりに綺麗だが奥の方から聴こえてくる。放送局のアーカイブ音源ではないかと思うが、テープノイズらしき雑音とフォルテの音割れがひどいのが難点。
カッチェンが25歳の時の演奏なので、若々しい激情と力強さのあるブラームス。
肩に力が入り過ぎて、タッチが強く荒っぽいところが多々あり(特にフォルテ)、ミスタッチも結構目立つ。
表現は直線的なところがあってやや深みに欠け、タッチの丁寧さと弱音の繊細さは後年の演奏に比べて不足気味。

第2楽章はしっとりと叙情的。ブラームス的憂愁というよりは、若者のセンチメンタリズム的叙情があって、瑞々しい爽やかさ。ここもフォルテへ向かうところはタッチが力強い。
第1楽章と、特に第3楽章はいつものとおり曲が白熱していくと突進(加速)していくので、かなりのハイペースでカデンツァも猛スピード。
全体的にあちこちでオケが遅れそうになっていて、ソリストに合わすのが大変そう。

1951年にクーベリック指揮アムステルダムコンセルトヘボウ管の伴奏で弾いたラフマニノフも、叙情的というよりもパワフルだったらしい。この頃は力強さとスピード感を主体にした弾き方をしていたんだろう。
演奏スタイルの変化がわかるという点で貴重な記録とはいえるけれど、彼の若い頃の演奏をぜひとも聴きたいと思う人以外は聴かなくても良い内容の演奏だと思う。

Brahms: Piano Concerto No. 1Brahms: Piano Concerto No. 1
(2001/01/01)
Johannes Brahms、

試聴ファイル



モントゥー指揮ロンドン交響楽団の伴奏によるスタジオ録音(1959年)
この録音はリマスタリングのクセが強い。響きは豊かでも、非常に人工的な音。
まるで音の幕が全体を覆って音のベールを1枚かぶっているような感じがして、音の響きに気ををとられてしまう。
ヘッドフォンやパソコンで聴いているとその点があまりわからない。ステレオのスピーカーから聴くとこの音の奇妙さが良くわかる。

モントゥー指揮ロンドン響の伴奏によるカッチェンの演奏は、陰影のある情感と力強さが交錯するカッチェンらしいブラームス。
第1楽章は硬質で粒立ちのよいタッチで、しなやかではあっても、きりっと引き締まった雰囲気。
緩徐部分は、澄んだ音色と軽やかなタッチで柔らかく優しく流麗。しなしなとした甘さはなくて、べたつきのない硬質の叙情感がとても清々しい。
フォルテになると、線の太い力感と量感のある重みが出て、強弱の強いコントラストが鮮やか。
緩急・強弱のコントラストが明瞭で、ブラームス独特の構造的な重みで抑制された感情が、絶えず噴きだしてくるよう。

第2楽章は、とてもゆったりとしたテンポで穏やかな弾きぶり。
冒頭からピアノが静けさに満ちて、まるで何かを憧憬しているか、瞑想しているような雰囲気。
徐々にピアノの弾く旋律に動きが出てきて、かなり細かく強弱のコントラストや起伏がついていき、静かながらも感情が激しく揺れ動いている感じ。
終盤、ピアノがフォルテで重音移動やアルペジオを弾くところは雄大でダイナミックな開放感。
最後は、再び弱音で静かに瞑想的な雰囲気に回帰して、最後にピアノが弾く旋律とトレモロは、心の中で呟いているよう。

第3楽章は、一転して速いテンポと力強いタッチ。ライブ録音が滅法速いテンポで疾走感と力感が強かったので、それに比べるとカッチェンにしてはちょっと穏やかかも。
アンサンブルのばらつきがあったり、途中で少しテンポが落ちたような気がしたり、気になるところがちらほらあるけれど。
中盤くらいで、カデンツァに入る手前から少しテンポが上がったようで、徐々に熱気を帯びてきて、カデンツァは勢い良く、そのまま終盤へ。


The Art of Julius Katchen, Vol. 3The Art of Julius Katchen, Vol. 3
(2004/01/12)
Kenneth Heath、

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コンヴィチュニー指揮ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団の伴奏によるライブ録音(1960年)
コンヴィチュニー盤ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管の伴奏によるライブ録音は、ライブ特有の白熱感があるし、なによりピアノの力感と疾走感が強くて一番カッチェンらしいブラームス。
コンヴィチュニー盤は1960年のモノラル録音、それもライブなので、どうしても音がややこもりがちで、響きが痩せている(特に高音域)けれど、それ以上に演奏内容が良いのでそれはあまり気にならなくなる。
変なクセのある音が響くモントゥー盤は聴きづらいので、多少音質は悪くても聴くのはいつもこちら。

Brahms, Mozart: Piano ConcertosBrahms, Mozart: Piano Concertos
(2006/05/30)
Johannes Brahms

試聴する


コンヴィチュニー盤のカッチェンのピアノは、速いテンポで音量豊かで力強さもあって雄渾な演奏。
力強さと感情の間で揺れ動くような叙情的な表現が強いので、疾風怒涛のなかを駆け巡るようにロマンティック。

コンヴィチュニーの演奏を聴くのはこれが初めて。ドイツらしい伝統に基づく重厚な音楽を作る指揮者らしい。
ライプツィヒ・ゲヴァントハウス管弦楽団はクルト・マズアが指揮した演奏をよく聴いた。それよりは古い時代の録音で、響きがかなり重厚になっている気がする。

このカッチェン&コンヴィチュニー盤はまずテンポがかなり速い。
ツィメルマン、アラウ、ゼルキン、ポリーニ、ギレリスは、第1楽章で23分くらい。アラウは遅い時で24分くらい、カッチェンとポリーニは21分と本当に速い。

第1楽章のカッチェンのピアノは力強くタッチで、フレーズの途中でもアクセントをとても強くつけている。
その上あまりペダルを使っていないせいか、音像がくっきりと立ち上がってくるので、骨格がしっかりとした演奏になっている。
スピード感も力感も抜群、音量も大きいので、ダイナミックな迫力がある。
弱音はとても柔らかく弾いているので、男性的な雄渾さの中にも叙情感が漂って、その落差の大きさが印象的。
伴奏は地鳴りのような響きのする重厚さと迫力があり、カッチェンの力強いピアノをしっかり支えているので、安定感と迫力は十分。
この第1楽章は、重厚感な響きはしているけれど、テンポがとにかく速くオケ・ピアノともスピード感があるので、重たい感じは全くしない。

第2楽章は、打って変わって穏やかにゆっくりとオケとピアノが対話していく。
弱音は消え入りそうな柔らかさで、時々力強く透き通った音で訴えかける鋭さがそれに交錯する。
静謐さの中に沈潜しつつ、強い叙情を切々と歌うピアノがとても美しい。

第3楽章は、凄まじく速いテンポでスピード感のあるピアノで始まる。
ポリーニと同じくらい速く、他のピアニストよりも1分くらいは速い。ポリーニもカッチェンも30歳代という若い頃の演奏なので、どうしても速くなるのだろう。
テンポが上がっても力感・量感とも落ちることはなく、ライブならではの一気呵成の勢いがある。
やっぱり、ここでもカッチェンがいつものように”突進”して加速している。
オケのトッティのところでテンポを落としているけれど、その後のピアノ・ソロでまたテンポが上がってしまう。
このテンポが伸び縮みするところが面白い。ライブで気合も入っているので、ピアノの勢いは止められず。それでもオケが乱れずにピアノにしっかりついてきているのが凄い。
聴き直すとあまりに速すぎて、音が詰まったパッセージになるとフレーズの最後などで打鍵が荒っぽくなって、表現もスピードに追いついていないところがあるけれど。
ピアニストがたいていルパートを入れるカデンツァも、カッチェンはテンポを全く落とさず一気に弾きこんでいく。
こういう怒涛の勢いのある曲になると、止まるに止まれないのがカッチェンらしいところ。
こればかりは仕方がないので、細かいことはとやかく言わずに、カッチェンの力強く勢いのある情熱的なピアノを楽しみましょう。
さすがに後年の40歳頃のカッチェンの別の曲の録音を聴くと、この突進するクセをコントロールできるようになっていて、相変わらず速いことは速いけれど、前のめりになるようなことはかなり少なくなっていた。

このライブ録音には、アンコールで弾いたモーツァルトのピアノ協奏曲第20番第2楽章が収録されている。
ブラームスはあまりに力強く迫力もあったのに、モーツァルトは一転して儚げで美しい。
同じピアニストが弾いているとは思えないくらいの変わり様。
CDのPR文句には、”演奏後にあまりの美しさに聴衆がため息をついた”と書いてあり、本当に聴衆がため息をつくというか息をのむような瞬間が録音されている。
それほどに、消え入るような弱音の柔らかさと響きがうっとりするくらいに美しい。
特に最後の数小節で弾いている弱音の儚げな響きは形容しがたいほど綺麗。
展開部では強く鋭いタッチで、叙情を強く歌うようにアクセントや強弱のコントラストが明快。
全体的には衒いのない淡々とした感じがするピアノだけれど、訴えかけてくるような余韻が漂う演奏だった。

 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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