《The Art of Julius Katchen》より ~ シューマン/ピアノ協奏曲 

2009, 03. 22 (Sun) 20:55

カッチェンは、シューマンのピアノ協奏曲をケルテス指揮イスラエル・フィルハーモニー管弦楽団の伴奏で1962年にスタジオ録音している。
この曲は同年11月に、フィルハーモニックホールの演奏会で、カール・ベーム指揮でカッチェンがピアノを弾いていた。

当時、DECCAが録音に使ったイスラエルのホールは、欧州のホールに比べて音響や設備などのレベルが落ちるという。
ライブ録音ならともかく、そんな場所でわざわざスタジオ録音せずとも良さそうに思うけど。
伴奏のイスラエル・フィルは重たい感じはしないし、厚みを感じさせる落ち着いた響きで、カッチェンの弾くピアノの細かい起伏の多い動きによく合わせている(ように思える)。
カルショーが結構辛らつな評価をしていたイスラエル・フィル。いつもピアノに集中して聴いていてあまりオケの方は気にしないので、実のところはどうかよくわからない。この頃のイスラエル・フィルは弦パートは良いが、木管か金管かのどちらかが力不足だと言っていた記憶がある。

The Art of Julius Katchen, Vol. 3The Art of Julius Katchen, Vol. 3
(2004/01/12)
Julius Katchen(piano),Istvan Kertesz,Janos Ferencsik,Pierre Monteux,Israel Philharmonic Orchestra, London Symphony Orchestra


試聴ファイル


カッチェンのピアノは、いつもと違って第1楽章からゆっくりめのテンポ。
ベートーヴェンのコンチェルトやソロのスタジオ録音でよくあるように途中でテンポが走らず、かなり安定している。(いつもこうだったら良いんだけど)

全体的に緩急のコントラストを強く出し、緩徐部分のテンポはかなり遅め。逆に、テンポを上げるときは急激に上がる。
緩やかな旋律を弾くときは、カッチェンらしい透明感のある柔らかい響きで、一言一言語りかけるように丁寧なタッチ。
一転して、テンポをあげて強めに弾くところは、硬く強めのタッチで粒立ち良く音像がくっきりと立ち上がる。
速いパッセージの弱音はキラキラとした輝いて軽やか。フォルテは線が太く力感充分。繊細さと力強さが絶えず交錯して、しなやかであり豪快でもある詩情とダイナミズムのあるシューマン。

第1楽章の冒頭のピアノソロは、力強いタッチで下行する和音。続く主題はとってもロマンティック。
弱音部分は、柔らかで優しげな響きが綺麗。
ゆったりとしたテンポで、一つのパッセージの中でも細かくタッチや響きが変わり、細波のように起伏があって、歌うようにしなやか。繊細ではあっても、感傷的ではなく、爽やかな叙情感がカッチェンらしい。

ところどころ突如現れるフォルテのパッセージになると、これがシャープでとても力強いタッチで音量も豊か。
勢いよくテンポも上がっていき、夢のなかから一瞬にして覚醒したよう。
ダイナミックで、静動の対比がとても鮮やかなので、シューマン特有の気分の浮き沈みの激しさ、特に高揚した時の情熱の激しさを感じさせる。

第2楽章は、ピアノの明るい音色とややテヌート気味なタッチで、ちょっと甘くてロマンティックな雰囲気。
ゆったりと演奏される弦の響きのなかにピアノの音が溶け込むかのような柔らかさと穏やかさがある。

第3楽章は、テンポが上がり、軽やかというよりは、キビキビと歯切れ良いタッチ。
ピアノはペダルをそれほど使わず、響きの厚みを少なくすっきりとした音響。
速いパッセージの高音がとても軽やかで、キラキラと煌くような響き。
アルペジオは勢いよく跳ね上がって、フォルテは高速でも線が太くて力感があり音量も豊かでキレが良い。
フォルテで弾く和音が杭を打ち込むようにアクセントになって、きりりと引き締まった男性的なタッチが爽快。カッチェンのフォルテは聴いていていつも気持ちよく胸がすくよう。
さすがにラストは気合が入っているのか、加速しながら(テンポが走っている感じではなく)力強いタッチで勢い良くエンディング。

yurikamomeさんのブログ<yurikamomeの妄想的音楽鑑賞とお天気写真>で、「洗練された都会的なリリシズムと気品とダイナミズムと、スーツの下に隠れているスマートに引き締まった肉体美を感じるロマンティックな演奏」と評されていて、これはまったくぴったりの表現。

カッチェンは、1962年にベーム指揮でこのコンチェルトを米国の演奏会で弾いていて、ライブ録音が残っている。(これはかなり入手しにくい盤)
スタジオ録音よりもずっと力感も躍動感も増して、とても男性的なダイナミックな演奏。
第3楽章は疾風怒濤の如く勢い良くて、躍動感も推進力も強くて、まるでベートーヴェンみたいな力強さ。これを聴くと、かなり力感豊かなスタジオ録音でさえ、ちょっと穏やかに思えてくるくらい。
カッチェンのライブ録音はいくつか聴いたけれど、スタジオ録音よりもテンポが速く勢いもよいし、フォルテの力強さが増していることがほとんど。
疾走感のあるダイナミックな演奏を聴くと、もっといろんなライブ録音を聴いてみたくなる。


 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

タグ:カッチェン シューマン

※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。

0 Comments

Leave a comment