早逝したピアニストたち
2009.01.11 17:16| ♪ピアニスト(現代音楽以外)|
クラシックの世界で30歳代~40歳なかばで若くしてこの世を去ったピアニストを調べてみると、30歳代は、カペル、チアーニ、エゴロフ、リパッティ。40歳代では、カッチェン、ハース、フランソワ。
いずれも才能豊かなピアニストだったので、彼らが存命だったら、素晴らしい音楽がもっと聴くことができたのに...。
このなかで、カッチェンはとても好きなのでよく聴いている。カペルやリパッティは数曲、フランソワはショパンのバラードの1曲のみ、チアーニ、ハース、エゴロフは聴いたことがないピアニスト。
ウィリアム・カペル( 1922年-1953年、飛行機事故により31歳で他界)
音楽評論家のハロルド・ショーンバーグが「第2次世界大戦終焉後世代における最も有望なアメリカ人ピアニスト」と評価したらしい。
ハチャトリアンのピアノ協奏曲の演奏でホロヴィッツ並みの人気者となったカペル。
ロサンジェルスの占い師は「彗星のような経歴だろうが、真に望むあるものは、手に入らない。そして30歳前に、衝撃的な死をとげるだろう」と予言した。
その後、失恋を経験したカペルは「手に入らないもの」の次にくるものを恐れた。
30歳を無事迎えて予言が外れたことを祝ったカペルだったが、1953年10月29日、飛行機事故で31歳で亡くなった。
カペルがRCAに残した録音の集大成BOXセットがリリースされている。分売盤もある。
飛行機事故で亡くなる前に録音したラフマニノフの協奏曲第2番とパガニーニバリエーション。
彼の弾くラフマニノフのコンチェルトは、(全く好みの弾き方ではないにしても)都会的でスマートで、とてもロマンティック。
それよりもカペルの弾くバッハが遥かに良いです。本当に”珠玉”という言葉がふさわしい演奏。
ディノ・チアーニ(1941年-1974年、自動車事故により33歳で他界)
「クラシックは死なない!」でも紹介されていたピアニスト。
あまり録音が残されていなくて、このBOXセットが一番よくまとまっている。
ユーリ・エゴロフ(1954年-1988年、HIVにより33歳で他界)
ピアニストのピアニスト内藤晃さんが紹介していたエゴロフ。シューマンの「謝肉祭」「蝶々」「色とりどりの小品」は絶品中の絶品と評していた。
[追記]
最近、エゴロフが弾くベートーヴェンの《皇帝》を聴いてみたら、こんなに素晴らしい《皇帝》を聴いたのは久しぶり。重なりあう響きの多彩さや弱音の繊細さ、緩徐楽章の詩的な雰囲気など、一度聴いたらすっかりはまって、このBOXセットをオーダー。試聴しただけでも、独特の音の美しさに自然と吸い込まれてしまいそう。
ディヌ・リパッティ(1917年-1950年、悪性リンパ腫により32歳で他界)
リパッティの最後のリサイタルのCDを持っていて、その表紙の彼の写真はまるで死の淵にいる人間の顔だった。この表紙のCDはすでに廃盤になっている。あの顔だけは忘れられないほど鬼気迫るものだった。
これがEMIに残した録音の集大成BOXセット。
私の持っている盤は音がすこぶる悪いのでよくわからないところがあったけれど、この集大成BOXは音がかなりマシになっている。
試聴した限りでは、柔らかいタッチだけれど、ぴんと背筋が伸びたような引き締まったところがあり、気品のあるピアノ。音があまり良くないのが残念。
ジュリアス・カッチェン(1926年-1969年、肺がんにより42歳で他界)
普通のピアニストの3倍くらいの演奏活動をしていたせいか、この中では残した録音が最も多くレパートリーも幅広い。彼に関する諸々の話は「カッチェンにまつわるお話」にまとめてあります。
ヴェルナー・ハース(1931年-1976年、自動車事故で45歳で他界)
ギーゼキング門下のピアニスト。私は全く聴いたことがないピアニスト。ドビュッシーやラヴェルに定評がある。あまり録音が残されていない。たぶんこのBOXセットが一番よくまとまっていると思う。
サンソン・フランソワ(1924年-1970年、心臓麻痺により46歳で他界)
フランスのピアニストで彼のショパンには定評がある。
バラード第1番の演奏を聴いたことがある。かなり崩された(デフォルメされた)弾き方で、この人は出来不出来の落差の激しいムラッ気があるのではないかと思ったもの。彼のピアノとは全く相性が合わないので、それ以来聴いていない。
彼が酒好きだったと後から知った時には、なるほどと納得してしまった。
彼が残した録音は、ほとんどがショパン、ラヴェル、ドビュッシーの作品。
フランソワのショパン作品集のBOXセット。レビュを見ると、録音音質がすこぶる悪いらしいので、音質を気にする人は、他の盤にした方が良いかもしれない。
フランソワに関する評論は、ピアニストの青柳いづみこさんの著書「ピアニストが見たピアニスト」にコンパクトにまとまっている。
この本は、リヒテル、ミケランジェリ、アルゲリッチ、フランソワ、バルビゼ(著者の恩師)、ハイドシェックの6人に関する評論が載っている。
伝記部分は、既存の資料をまとめているところが多い。いずれの評論も同業者としてのピアニストの視点が入っていて、世の評論家とは違った演奏に対する評価や解説が読めるところがとても良い。
ピアニストに興味がある人には、とてもお勧めできる本です。
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。
いずれも才能豊かなピアニストだったので、彼らが存命だったら、素晴らしい音楽がもっと聴くことができたのに...。
このなかで、カッチェンはとても好きなのでよく聴いている。カペルやリパッティは数曲、フランソワはショパンのバラードの1曲のみ、チアーニ、ハース、エゴロフは聴いたことがないピアニスト。

音楽評論家のハロルド・ショーンバーグが「第2次世界大戦終焉後世代における最も有望なアメリカ人ピアニスト」と評価したらしい。
ハチャトリアンのピアノ協奏曲の演奏でホロヴィッツ並みの人気者となったカペル。
ロサンジェルスの占い師は「彗星のような経歴だろうが、真に望むあるものは、手に入らない。そして30歳前に、衝撃的な死をとげるだろう」と予言した。
その後、失恋を経験したカペルは「手に入らないもの」の次にくるものを恐れた。
30歳を無事迎えて予言が外れたことを祝ったカペルだったが、1953年10月29日、飛行機事故で31歳で亡くなった。
カペルがRCAに残した録音の集大成BOXセットがリリースされている。分売盤もある。
![]() | William Kapell Edition (Box Set) (1998/09/29) Edmund Kurtz、 試聴する |
飛行機事故で亡くなる前に録音したラフマニノフの協奏曲第2番とパガニーニバリエーション。
彼の弾くラフマニノフのコンチェルトは、(全く好みの弾き方ではないにしても)都会的でスマートで、とてもロマンティック。
それよりもカペルの弾くバッハが遥かに良いです。本当に”珠玉”という言葉がふさわしい演奏。
![]() | Rachmaninov: Piano Con No.2 (2002/04/01) WilliamSteinberg Kapell 試聴する |

「クラシックは死なない!」でも紹介されていたピアニスト。
あまり録音が残されていなくて、このBOXセットが一番よくまとまっている。
![]() | Dino Ciani: A Tribute (2003/02/03) Mily Balakirev、 商品詳細を見る |

ピアニストのピアニスト内藤晃さんが紹介していたエゴロフ。シューマンの「謝肉祭」「蝶々」「色とりどりの小品」は絶品中の絶品と評していた。
![]() | Youri Egorov - The Master Pianist (2008/03/04) Johann Sebastian Bach、 試聴する |
[追記]
最近、エゴロフが弾くベートーヴェンの《皇帝》を聴いてみたら、こんなに素晴らしい《皇帝》を聴いたのは久しぶり。重なりあう響きの多彩さや弱音の繊細さ、緩徐楽章の詩的な雰囲気など、一度聴いたらすっかりはまって、このBOXセットをオーダー。試聴しただけでも、独特の音の美しさに自然と吸い込まれてしまいそう。

リパッティの最後のリサイタルのCDを持っていて、その表紙の彼の写真はまるで死の淵にいる人間の顔だった。この表紙のCDはすでに廃盤になっている。あの顔だけは忘れられないほど鬼気迫るものだった。
これがEMIに残した録音の集大成BOXセット。
![]() | Icon: Dinu Lipatti (2008/03/26) Johann Sebastian Bach、 試聴する |
私の持っている盤は音がすこぶる悪いのでよくわからないところがあったけれど、この集大成BOXは音がかなりマシになっている。
試聴した限りでは、柔らかいタッチだけれど、ぴんと背筋が伸びたような引き締まったところがあり、気品のあるピアノ。音があまり良くないのが残念。

普通のピアニストの3倍くらいの演奏活動をしていたせいか、この中では残した録音が最も多くレパートリーも幅広い。彼に関する諸々の話は「カッチェンにまつわるお話」にまとめてあります。

ギーゼキング門下のピアニスト。私は全く聴いたことがないピアニスト。ドビュッシーやラヴェルに定評がある。あまり録音が残されていない。たぶんこのBOXセットが一番よくまとまっていると思う。
![]() | Hommage à Werner Haas (2001/10/23) Johann Sebastian Bach、 商品詳細を見る |

フランスのピアニストで彼のショパンには定評がある。
バラード第1番の演奏を聴いたことがある。かなり崩された(デフォルメされた)弾き方で、この人は出来不出来の落差の激しいムラッ気があるのではないかと思ったもの。彼のピアノとは全く相性が合わないので、それ以来聴いていない。
彼が酒好きだったと後から知った時には、なるほどと納得してしまった。
彼が残した録音は、ほとんどがショパン、ラヴェル、ドビュッシーの作品。
フランソワのショパン作品集のBOXセット。レビュを見ると、録音音質がすこぶる悪いらしいので、音質を気にする人は、他の盤にした方が良いかもしれない。
![]() | Chopin: Piano Works (2001/10/06) Frederic Chopin、 試聴する |
フランソワに関する評論は、ピアニストの青柳いづみこさんの著書「ピアニストが見たピアニスト」にコンパクトにまとまっている。
この本は、リヒテル、ミケランジェリ、アルゲリッチ、フランソワ、バルビゼ(著者の恩師)、ハイドシェックの6人に関する評論が載っている。
伝記部分は、既存の資料をまとめているところが多い。いずれの評論も同業者としてのピアニストの視点が入っていて、世の評論家とは違った演奏に対する評価や解説が読めるところがとても良い。
ピアニストに興味がある人には、とてもお勧めできる本です。
![]() | ピアニストが見たピアニスト (2005/06/10) 青柳 いづみこ 商品詳細を見る |
※右カラム中段の「タグリスト」でタグ検索できます。