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カッチェン《ブラームス:ピアノ作品全集》より (3)4つのバラード
カッチェンのブラームス作品全集に収録されている「4つのバラード」。
ブラームスの交響曲、協奏曲、独奏曲、室内楽曲は、楽器を問わずとても好きなのに、なぜかこの「バラード」だけは、敬遠していた。
初めにグールドで聴いてこの曲が理解できず、次にミケランジェリで聴いて違和感を感じたが、今から思えば、相性の悪いピアニストの演奏を聴いていたためで、聴くべきピアニストを間違えていた。

カッチェンの演奏は青年ブラームスらしさが溢れた「バラード」。カッチェンのピアノを聴いて、ようやくこの曲がどういう曲で、どんな魅力があるのかようやくわかって一安心。
ルプーのブラームスも定評があって、昔からブラームスのピアノ独奏曲はルプーの演奏で聴いてきた。彼が弾くブラームスもとてもリリカルで素敵だけれど、カッチェンとは少し趣きが違う。これはもう好みの問題。ルプーはバラードを録音していないので、聴くことができないのが残念。
Brahms: Works for Solo PianoBrahms: Works for Solo Piano
(1997/11/11)
Julius Katchen

試聴ファイル



バラードは、同主調になっている2曲が2組の合計4曲で構成されている。
ショパンのバラードのような華麗で外へ向かうような曲ではなく、心の中でいろいろな感情が交錯するような内面の葛藤を表現しているような曲だと思う。

第1曲 ニ短調 Andante
ゆっくりとしたテンポで弾いているが、タッチが柔らかく軽やかなので、それほど重苦しさを感じさせない。(グールドの演奏には抑うつしているような重苦しさや寂寥感があった。)
高揚部はとても力強いフォルテで和音の響きも荘重。主題部での弾き方とのコントラストが明確なので、クライマックスの印象が強くなっている。

第2曲 ニ長調 Andante
夢見るような優しさと明るさに溢れている。柔らかいタッチで弾く透み切った弱音の響きがとても美しい。
展開部では一転して力強く激しい和音の連打が続くが、和音の打鍵は弾力があって歯切れが良い。和音の連打の中でも起伏をつけているのでリズム感がある。第1曲と同様に緩急や強弱のコントラストが強く明確なのでドラマティック。

第3曲 「間奏曲」Intermezzo ロ短調 Allegro
カッチェンは、間奏曲らしく、鋭く切れのあるタッチで弾いており、とても軽やかには弾いているが、密やかな雰囲気を強く出している。
早めのテンポで弾いているので、何かが起こりそうな、迫ってくるような感じがある。

第4曲 ロ長調 Andante con moto
ここは速いテンポでとても軽やかで流麗に弾いている。
ミケランジェリやグールドは10分近くかけて超スローペースで弾いていたが、カッチェンは半分近く短い5分台。この速さの違いのせいで、とても同じ曲を弾いているとは思えない。
スローペースだと行き詰るような重苦しさを感じるせいか、個人的には速いテンポで弾く方が曲の表情が良く見えてくる。
冒頭は軽やかなレガートで優しく切ない雰囲気が漂ってくる。展開部では抑制しつつも感情が激しく渦巻くような激しさを感じさせる。
再び主題にもどると、今度は歯切れ良いタッチで躍動感を見せるが、すぐに沈潜したり、激しくなったりと、次から次へといろいろな感情が交錯していく。

この第4曲の演奏時間がなぜか気になったので、20種類以上の演奏で調べてみると(ituneやNAXOSで検索すると演奏時間がすぐわかるので)、ミケランジェリのようにゆっくりしたテンポ(演奏時間は9分前後)で弾くのが多く、8分前後がちらほら。7分13秒が見つけた限りで最短。
全ての録音を調べられるわけもないが、5分30秒くらいで弾いているカッチェンは、おそらく最速か最速に近いに違いない。それでも私には全く違和感のない速さと流れに聴こえるのが不思議。(私の感覚が普通と違うのかも。)
テンポ指示はAndante con moto。たしかに5分台で弾けばcon moto になるのは間違いないが、それにしても速い。
聴き比べると良くわかるが、5分半ばの最速テンポで弾くと曲に生気が強く感じられる。9分~10分くらいになると重苦しく物憂げ。第1~3曲までは内面のなかを映し出しているようなやや閉塞気味の曲想なので、第4曲を速いペースが軽やかに弾くと、開放感と若々しさが出て、生き生きとした表情に変わる。
あえて極めて速いテンポで弾いているカッチェンの演奏解釈は、とても個性的だけれど、起承転結のような構成の「4つのバラード」の締めくくりの曲として、自然な流れに感じられる。

カッチェンの演奏は、速いテンポで起伏を細かくつけながら弾いているので、ブラームス特有の重厚さや渋みはないが、瑞々しい感性や若々しい感情が溢れている。
心の中に閉じ込めているいろんな感情が零れ落ちてくるような詩情が美しく、21歳の青年ブラームスが作曲したバラードを同じような感性で弾いているかのように思えてくる。

 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

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Author:yoshimi
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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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