ミケランジェリ ~ ブラームス/4つのバラード 

2009, 02. 04 (Wed) 20:00

カッチェンの「4つのバラード」の演奏を聴く前に聴いていたのは、グールドとミケランジェリの弾く「4つのバラード」。
今から思えば、クセのある変化球、それも2球続けて打とうとしていたようなもの。
グールドの演奏を聴いて、あまりにスローペースで寂寥感が漂い単調に聴こえてくるので、これはちょっと違うだろうと思い、今度はミケランジェリの演奏で聴いた。
ルプーあたりで聴くべきだったが、ルプーの録音が残っていない。
ミケランジェリで聴いても、この「バラード」が全然良い曲だとは思えなくて、それ以降は全然聴かなくなってしまった。
この2人の演奏がなぜか有名でこれだけ聴いている人も結構多いようなので、この曲を後期ピアノ曲みたいな渋くて鬱々とした(偏った)イメージにしているのではないかと思っている。

ミケランジェリが弾くバラードの評価は高い(らしい)。ピアニストの青柳いづみこさんは、このバラードを含めたコンサートのライブ映像を視聴して「抑制の仮面からにじみ出る抒情、即興性、ロマンティシズム」と評していた。
もう一度聴いてみると、耳も慣れてきてさほど違和感は感じなくなったが、それでも相性がぴったりとは合わないところがあって、座り心地が悪い。

Brahms, Schubert, Beethoven / Arturo Benedetti MichelangeliBrahms, Schubert, Beethoven / Arturo Benedetti Michelangeli
(2000/01/11)
Ludwig van Beethoven、

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第1曲 ニ短調 Andante
テンポはグールドより少し速く、高めの鋭角的な響きが引き締まった感じを与える冒頭。
ブラームスを弾くには透明感の明るい音色かもしれないが、それはあまり気にはならない。
タッチがグールドよりも軽やか。起伏の付け方はそれほど大きくはないが、単調さは感じさせない。

第2曲 ニ長調 Andante
やわらかな響きで弾くところは美しく、高音部の透明感のある響きは、時に甘やかでもある。
途中から高揚して盛り上がるところは力強く、華麗な響きがするが、重厚さはない。(バラード全体としても、それほど重厚な弾き方をしていない)

第3曲「間奏曲」 ロ短調 Intermezzo. Allegro
さほど速いテンポではなく、こんこんと杭を打つように明確に打鍵している。タッチも響きもいろいろ変えているので、聴いている分には変化があって面白い。
暗い曲想の曲だけれど、なぜか響きには華麗さがあって、悲愴感などの切迫した感情は感じられない。

第4曲  ロ長調 Andante con moto
グールドと同じくテンポは超スローだが、軽やかで起伏があって生気が感じられるし、硬質の音色やベールのかかったような響きがとても美しい。
ブラームスにしてはとても流麗で優美さが漂っている。展開部では荘重な響きの裏に、感情が抑圧されたような重苦しさがあるような感じ。

ミケランジェリの演奏は、音色や響きのバリエーション、起伏つけ方やフレーズの歌わせ方が、同じスローテンポで弾くグールドよりも凝っていて、テンポが遅くても単調さは全く感じない。
外形的にはいろいろ工夫されているので、飽きることなく聴けるが、情感を歌うところは極めて抑制されているので、ブラームスを聴くにはあまり好みの弾き方ではない。
レーゼルの演奏には若者らしいストレートな感情が溢れているし、カッチェンの演奏は心のなかで交錯するさまざまな感情を表現し共感させるものがあるけれど、ミケランジェリはその反対に、その感情をいかに抑制しているのかを感じさせる。

ピアニストによって、これだけ極端に違う曲に聴こえるというのも面白いものだと思う。
このバラードはブラームスが21歳の時に作曲したもの。
録音時30歳代半ばだったカッチェンや30歳くらいのレーゼルの演奏で聴くと、作曲当時21歳の青年だったブラームスが持っていたであろう感性と同じような感性で弾いている。
それに対して、50歳のグールドと61歳のミケランジェリは年齢を重ねたピアニストしか持てない感性で弾いているような演奏だと感じさせる。

タグ:ブラームス ミケランジェリ

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2 Comments

sawyer  

エドヴァルド

こんにちは
「4つのバラード」第1曲「エドヴァルド」には陰惨なストーリーがあります。
母親と子供の会話形式で話が進行するのですが、父親殺しという事件の首謀者が、実は母親だったという結末を迎えます。
このあたりをブラームスは、「運命の動機」を巧みに引用して表現しています。静から激しい動き、心の動揺、事実の吐露・・・そのような表現をミケランジェリは、テクニックはもちろん、ピアノの音色を伴って見事に表現します。

以下に「4つのバラード」およびミケランジェリについて、小生が書いたブログがあります。

http://sawyer.exblog.jp/2747928
http://sawyer.exblog.jp/3628702
http://sawyer.exblog.jp/2748583

2009/06/22 (Mon) 09:57 | EDIT | REPLY |   

yoshimi  

エピソードの陰鬱さは苦手なのですが

sawyer様、こんにちは。コメントありがとうございます。

ブログの記事は以前読ませていただきました。意外なエピソードがあって勉強になりました。

この曲は第4曲以外はあまり好きではないのですが、エドワードの暗~い物語が影響したのか陰鬱というか翳りが多いからかもしれません。
元々相性の悪いミケランジェリとグールドの演奏で聴いたのが、さらに良くありませんでした。
本文にも書いておきましたが、評価が高い演奏なのでしょうが、あいにくブラームスの演奏としては好きなタイプではないですね。ミケランジェリ独得の音色や響きを堪能するには良いと思いますが。

ミケランジェリはブラームス作品ではパガニーニ変奏曲も録音していますが、メカニックの精緻さが素晴らしく、これは文句なく良いと思います。
1950年代頃までのミケランジェリの演奏なら好きですね。音色や響きへのこだわりよりも、自由な雰囲気で演奏しているように思うので。

ミケランジェリのブラームスは、ブラームスの曲を聴くというよりも、”ミケランジェリを聴く”ようなものだと言われた方がいて、その通りだと思っています。
やはりブラームスを聴くときは、カッチェンとルプーの演奏が私にはベストです。

2009/06/22 (Mon) 10:12 | EDIT | REPLY |   

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