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村上春樹『意味がなければスイングはない』(文春文庫版)
村上春樹の「意味がなければスイングはない」が、文春文庫から12月に新刊で発売されていたので、早速購入した。

単行本で読んではいるが、「ゼルキンとルービンシュタイン 2人のピアニスト」と「日曜日の朝のフランシス・プーランク」だけが読みたかったし、何回も読んで内容はほとんど頭に入っているので、単行本は買わず仕舞い。さすがに文庫版なら手元に置いておきたくなる。

この本を読んでから、ゼルキンのCDを集め始めたという思い出の本。カッチェンは「クラシックは死なない!」という本で紹介されていたのがきっかけでCDを集め始めた。本というものには、感謝しなくてはいけない事がたくさんある。

意味がなければスイングはない (文春文庫)意味がなければスイングはない (文春文庫)
(2008/12/04)
村上 春樹

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「ゼルキンとルービンシュタイン」は、2人の伝記を対比するようにコンパクトにまとめて、最後は著者が聴いてきた録音(ブラームスのピアノ協奏曲第2番)についてもコメントしている。
村上春樹の比喩は相変わらず面白いし、本質的な部分を別の角度から鮮やかについてくるようで、いつも冴えている。

ゼルキンは、コンサートでいつも良い状態のピアノで弾けるとは限らないと思っていたので、自宅ではコンディションの非常に悪いピアノで練習していた。遊びにきたピアニスト仲間は、そのピアノではまともに弾けなかったという。
著者は「星飛雄馬の大リーグボール養成ギプスみたいな話だけど、とりあえずそういう性格の人なのだ。」と結論づけている。
ゼルキンは幼少期からいろいろと苦労した人らしい。さほど裕福ではなかった家庭環境、師シェーンベルグとの決別、ナチス台頭により欧州を離れて米国で活動せざるをえなかったこと、戦時中欧州に残っている親戚・友人・知人たちを脱出だせるためにいろいろと援助していたことなど。神童といわれて音楽的才能には恵まれながらも、順風とは言えない人生だったので、常に最悪の事態に備えるような思考方法になっていたのかもしれない。
ゼルキン自身の性格もあるだろうけれど、彼が育ってきた環境や社会、歴史の歯車が、ゼルキンにオプティミスティックであることを許さなかったのだろう。

シューベルトのピアノ・ソナタ第17番をめぐる考察もあって、シューベルト好きな人なら共鳴するところも多いかもしれない。
面白かったといえば、ギレリスとリヒテルがこの17番ソナタを録音していることについて書いた文章。シューベルトには思い入れがないので、この章はさほど興味を惹かれなかったが、ここだけは笑えた。
「この2人に共通しているのは、類まれなる強靭なタッチで、ばったばったと弾きまくるところだ。音はきわめてクリアで正確、シューベルト的あいまいさは、戸口からきれいさっぱり、弁証法的に掃き出されてしまっている。」
それでも、リヒテルの演奏がつくりだす静謐さは評価しているが、ギレリスとなると「まるで、金メダルの体操競技をみているような爽快さが、そこにはある。」。それを「重戦車的ピアニズムの展開」と表現している。
これを読んで、リヒテルはともかく、ギレリスが弾くシューベルトだけは絶対に聴くまいと思ったものだ。

「日曜日の朝のフランシス・プーランク」は、プーランクの音楽についてかなり分析的にあれこれ書いている。
プーランクを知っている人なら、ふんふん、そういうところがあるかもしれないねと、いろいろ気づかされるところがある。
プーランクは朝の光の中でいつも作曲していたという。
そのせいか、タイトルどおり、プーランクの音楽は、日曜日の朝、それも、太陽の陽射しが差し込む窓辺で聴くのが一番似合っている。
管弦楽曲もピアノ協奏曲も良いけど、ピアノ独奏曲はとても軽快で明るく、パリらしいエスプリがよく効いている音楽なので、一番リラックスできる。
プーランクのピアノ曲を聴きながら、トーストと紅茶をいただく日曜の朝はとてものどかな時間。
著者は「プーランクの歌曲はまさにチャーミングな宝石箱だ。」といっているけれど、この感覚は良くわかる。まるで小さな宝石が零れ落ちてくるような気がする。
この文章を読むたびに、またプーランクが聴きたくなってくる。

tag : ゼルキン ルービンシュタイン ブラームス プーランク シューベルト 伝記・評論

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(非公開コメント受付中)

こんばんは。この本、気にはなっているのですが、なかなか手が出ていません。
それにしてもyoshimiさんはたくさん聴いていますよね。
私はどうも…。曲によっては猫が暴れて破壊活動につながるので敬遠しがちです。
せめてヴァイオリン曲だけでも聴くようにしたいと思います。

ところで、やはり世の中には聴いたほうが良いものと、あんまり聴かなくて良いかもしれないものがあるので、情報は大事ですね。判断も大事ですが…。
村上春樹の評論は面白いですね
魚丸さん、こんばんは。

村上春樹は20年以上前から読んでいますが、最近は作風が変わっているので全然。でも、評論は面白いから見つけたらよく読んでます。「やがて悲しき外国語」は面白かったですよ。

この本はジャズ好きなら面白いと思いますが、ジャズ好きでなかったらよくわかないことが多いという難点があります。
私もジャズは聞くのですが、ちょっと好みと違うアーティストばかり載ってたので、結局クラシックの3つの章を集中的に読むだけで満足しました。

何を聴くべきかの判断は難しいですね。情報も困り者で、玉石混交なのと人によって好みが違うので。同じ音楽でも、正反対のレビューが載っていることが多くて、やっぱり聴いてみないとわからないことは多いです。

私はCDを千数百枚を持っているのですが、ハズレたCDは数知れず。結局、膨大なコストをかけて、やっと聴くべきものが大体わかる勘が身につきました。
それに最近はオンラインで試聴できる曲が多いので、見当も付きやすくなりましたね。
こんにちは。

同書は先日購入し、読み始めたところです。
はじめにシューベルト、次にウィントン・マルサリス、さらに・・・といきたいところですが、ここで止まっています。

ブログにはいろんなスタイルがありますが、村上春樹のような文章を書いてみたいと思わされました。
音楽を聞いて感じたこと、つまり主観的なことをなるべく正確に、内容が深く、さらにはセンスを感じさせつつ文章が作れたらなと思います。

チェリビダッケのブラームス4番、届きました。そして聞きました。
素晴らしいです!
でもこれを、今の僕には文章にできません(悲)

そんなこんなですが、この本はぼちぼち読んでいきます。
村上春樹の比喩の切れ味は抜群です
よんちゃん様、こんにちは

この本を買われたのですね!文庫版にしては、価格以上の内容で読み応えがある本だと思います。
私の好きなジャズピアニストが載っていないので、ジャズのところはもうひとつピンとこなかったのですが、クラシックがらみだけでも充実しています。

彼の文章は初期の頃とは大分違っていますが、評論はどれを読んでも面白いです。彼の使う比喩は、目からウロコが落ちるというか、いつも感心してしまいます。
音楽ものは他にも1冊書いていたと思いますが、ジャズがらみだったので読んでいなかったのを思い出しました。

チェリビダッケのブラームス、やっぱり素晴らしいですね!私は中継か録画で一度聴いただけで、陶酔してしまいました。
勢いあまって、彼のEMIのBOXセットを2つ買ってしまったのですが、あまり聴いていないのに気がついて、順番に聴いていこうと思っています。でも、このブラームスほどに感動する演奏には、出会えないような気がします。

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プロフィール

yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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