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スティーヴン・ハフ ~ ブリテン/ピアノ作品集『Holiday Diary』
ベンジャミン・ブリテンは、『ピーター・グライムズ』、 『戦争レクイエム』や『青少年のための管弦楽入門』などで有名だけど、ピアニストであったにしては、ピアノ曲はそう多くは残していない。
彼は元々ヴィルトオーゾ系のピアニストだったので、ピアノとは演奏や作曲で終生付き合っていたが、残したピアノ曲は協奏曲が2曲、残りは1台と2台のピアノのための小曲(ピアノ・ソナタはなし)のみ。
小曲の大半は10歳代~20歳代の時に書いた作品で、初期の作品は長い間埋もれていたが、ブリテンは出版社などに出版するように説得されて、1968~1970年に出版していったもの。
ブリテンのピアノ曲を録音するピアニストも少ないので、ブリテンのピアノ曲を聴く機会があまりないのがとても残念。

手元にあるピアノ曲のCDは、リヒテルのピアノ協奏曲、カッチェンの「ディヴァージョンズ<左手のためのピアノと管弦楽の主題と変奏>」、いずれもブリテン自ら指揮していて、それぞれ定評のある録音。
それに、このピアノ小曲集『Holiday Diary』。ピアノ独奏曲が7曲、2台のためのピアノ曲が3曲収録されている。ピアノ・ソロはスティーヴン・ハフ、2台のピアノはハフとロナン・オーラで、いずれもイギリス人ピアニスト。
20年近く前に手に入れたので、このCDはもう廃盤。国内・海外のamazonのマーケットプレイスなら入手可能だが結構なプライスがついている。
このアルバムの収録曲は、ブリテン作品の『コレクターズ・エディション』(EMI)の37枚組セット中13枚目のCDにそのまま全て収録されている。

Britten: Holiday Diary, The Music for 1 and 2  PianosBritten: Holiday Diary, The Music for 1 and 2 Pianos
(2001/05/01)
stephen hough

試聴ファイル(『Britten: Chamber & Instrumental Works』Disc5にリンク)


久しぶりにこの曲集を聴いていると、若書きの曲が多いけれどどの曲もブリテンの才気に満ちている。
全て調性音楽だが、どこかしら従来とは違った新しさを感じさせ、軽妙だが節度ある品の良さと前衛的ではないがモダンな薫りのする旋律と和声。
それに、若かりしブリテンの穏やかな性格が現れているような落ち着いた親密な雰囲気がする。時として、シニカルというか、苦いユーモアも交えたようなところもあるが。
プーランクの音楽とは趣きが違うけれど、このブリテンの音楽も紅茶とトーストでゆっくりと過ごす日曜日の朝にとても似合っている。
こんなにセンスの良いブリテンのピアノ小曲集があまり知られていないのは本当に惜しい。

ソロを弾いているピアニストのスティーブン・ハフは、1961年生まれなので30歳の時の録音。
切れの良いテクニックと知的なセンスを感じさせるピアノを弾いているので、調べてみると彼はヴィルトオーゾ系の俊英で英国などでは有名なピアニスト。
数々の賞を受賞しているが、ラフマニノフ、リスト、ショパンなどを試聴してみると、この人はかなり凄そう。技術的な正確さと切れの良さはすぐにわかるが(アムランくらいのレベルかも)、叙情表現も巧みで響きや音色にもかなり気をつけているような感じがする。
ハフは、曲想からリズムまで、バリエーションの広い、ブリテンの才気に溢れたこの曲集も弾きこなしている。
どうして日本でハフがあまり知られていないのか不思議。(私も知らなかったけど。)

Holiday Diary 『休日の日記』, Op.5(1934)
早朝の海水浴,帆走,遊園地,夜という標題を持つ4曲からなる組曲。
「早朝の海水浴」は旋律はとても軽やかで、期待や喜びを感じさせる爽やかさ。ユニークなリズムとそれがコロコロと変わっていくのが面白い。
「帆走」はとても静かな海のセイリングのような感じで(まるで夜の海を漂っているかのような)、透明感のある曲...と思って聴いていたら、途中で海が急に荒れて慌てふためいているような旋律に変わった。ここはディアベリ変奏曲の第9変奏に似ているおどけたリズムと旋律がところどころ出てくる(と私は感じた)。最後は元の静けさに戻るが、密やかさのある美しい旋律がとても印象的。
「遊園地」はどこか調子はずれの調性だけど楽しげな曲。リズム感もよく、都会的でセンスの良い旋律。この曲と「早朝の海水浴」は、短調とも長調とも言いがたい中性的(とでも言えばよいのか)な調性の曲。
「夜」は静かに夜が更けていくような静けさのある曲。両手ともとてもシンプルで音の密度が薄い。途中で、曲が盛り上がるように、ほんの少し音が増えてフォルテになるが、すぐ元の静けさにもどって行く。

ブリテンが21歳の時の作品。ブリテンは子供の純真さに魅かれていたせいか、子供たちにすぐに好かれるという、特技(?)があった。DECCAの名プロデューサーだったジョン・カルショーの回想録「レコードはまっすぐに」のなかでも、合唱団のやんちゃな子供たちがすぐにブリテンになつき、ブリテンが子供を見事に操る能力について、カルショーは感嘆して書いていた。

Three Character Pieces 『3つの性格的な小品』(1930)
John,Daphne,Michaelという3つの性格を現した曲。
これは彼の音楽学校時代の作品で級友をイメージしている。
「John」は軽妙さと好奇心を感じさせる曲。「Daphne」はとても優しげで、どこかしら傷きつきやすそうなセンシティブなところがある。「Michael」は躍動的で、わんぱくっぽい感じがする少し可笑しさのある曲。

Night Piece (Notturno) 『ノットゥルノ』(1963)
タイトルどおりノクターンで、初めは明るい調性で静かで穏やか。途中で暗く不安定な和声とリズムに変わり、最後は定番どおりまた主題に戻ると思ったら、完全には主題に回帰しないままやや不安定な響きで終わる。
ロマン派的なノクターン風の曲という展開を期待していると、それとは違う一風変わったノクターンなのがかえって面白い。
これはピアノコンクールの課題曲として作曲されたもので、技巧よりも音楽性を試すことを目的にしたという曲。

Moderato & Nocturne (Sonatina Romantica) 『ロマンティックなソナチネ』より「モデラート」と「ノクターン」(1940)
「Moderato」はユニゾンのアルペジオと和音で構成された主題で始まるが、どこかで聞いた気がするような、アクセントをきかせた印象的な旋律。この主題のモチーフが次々と形を変えて登場する面白い曲。
これから何かが始まるような不確かな期待のようなものを感じる。この曲は自分で弾いてみたくなるような不可思議さがある。
この「Nocturne」は標題どおり、ノクターンのような穏やかな曲。左手の分散和音の伴奏にのせて、右手が柔らかく旋律を弾いていく。

Twelve Variations on a Theme 『12の変奏曲』(1931)
18歳のブリテンは、9分あまりの演奏時間の曲に12の変奏を詰め込んだが、これがリズムも旋律も伴奏が大きく変形していくので、ヴァリエーションというよりそれぞれ独立した曲のように聴こえる。
この曲は楽譜を見ておきたいところだけれど、これは滅多に見かけない類の楽譜だし、ブリテンの著作物はまだパブリック・ドメインになっていないので、国際楽譜図書館にも登録されていない。

Five Waltzes 『5つのワルツ』(1923-5,1969)
とてもスマートで洒落ていて、都会的なセンスとでもいうような品の良さのあるワルツ集。これはブリテンがわずか10歳~12歳の時に書かれた曲。
1曲目のワルツでは、中間部で、アルカンの「短調による12の練習曲~協奏曲」の主題の和音に良く似た旋律が現れる。

このワルツもそうだが、ブリテンのピアノ小品は、組曲や変奏形式がとても多い。
恩師の主題をモチーフにした弦楽曲「フランク・ブリッジの主題による変奏曲」は、ブリテンの出世作にもなったし、左手のためのピアノ協奏曲の「ディヴァージョンズ」も変奏曲(これはピアニストのヴィトゲンシュタインの委嘱作)。変奏曲という形式が、才気煥発でいろんなアイデアやひらめきに溢れるブリテンには向いていたのだと思う。

Two Lullabies 『2つの子守歌(2台のピアノの為の)』 (1936)
1つ目は、多分普通の子供のための子守歌。2つめは”ある退役将軍のための子守歌”。軍人はマーチが子守歌代わりとでもいうつもりの行進曲風で、まるでパロディのような曲。

Mazurka Elegiaca 『悲歌的マズルカ』 Op.23-25(1941)
1941年に亡くなったポーランドのピアニストで政治家のパレデフスキに捧げた曲。
マズルカ=舞曲風のリズム感は強くなく、マズルカ的な拍子を持ったパデレフスキーへの追悼曲だと思って聴けば、静かな哀感が流れていてとても美しい。

Introduction & Rondo Alla Burlesca 『序奏とブルレスク風ロンド』, Op.23 No.1(1940)
「Introduction」は、ディアベリ変奏曲の諧謔と悲痛が合い混じったかのような第9変奏を連想してしまう。(Holiday DiaryのSailingでも同じような感じがした。)
「Burlesca」はリズム感もよく軽やかでその言葉どおり滑稽な感じがすることはするが、かなりの悲愴感というか切迫感がある。諧謔ではなく、焦燥感から慌てて動き回っているようなフーガ風の曲。
『序奏とブルレスク風ロンド』は、旋律やリズム感はとても面白いが、かなりの緊張感がある。
解説を読むと、この曲は同時期に作曲された「Sinfonia da requiem」の最初の2つの楽章と合い通じるところがあり、戦争に彩られた”War Piece”と位置づけられている。

指揮者としても優れていたブリテンは自作の指揮をすることが多く、ピアノ協奏曲やディヴァージョンズもピアニストを指名して、自ら指揮した録音を残している。
DECCAは、ブリテンの自作自演集 "Britten Conducts Britten" シリーズを今までに4巻リリースしている。第1~第3巻はオペラや合唱曲だが、第4巻は管弦楽曲・協奏曲集で、「フランク・ブリッジの主題による変奏曲」や「Sinfonia da requiem」など、ブリテンが指揮した演奏の録音が収録されている。
EMIからもブリテンのコレクションBOXが出ているが、これはブリテン以外の指揮者による演奏の集大成。


<収録曲>
For Solo Piano
 -Holiday Diary, Op.5
   I. Early Morning Bathe,II. Sailing,III. Funfair,IV Night
 -Three Character Pieces
   I. John,II. Daphne,III. Michael
 - Night Piece (Notturno)
 - Moderato & Nocturne (Sonatina Romantica)
 - Twelve Variations on a Theme
 - Five Waltzes
    I. Rather Fast And Nervous,II. Quick, With Wit,III. Dramatic,IV. Rhythmic; Not Fast,V. Variations: Quiet and simple

For Two Pianos
  - Two Lullabies I. Lullaby,II. Lullaby for a Retired Colonel
  - Mazurka Elegiaca, Op.23 No.2
  - Introduction & Rondo Alla Burlesca, Op.23 No.1

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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