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吉松隆/交響曲第1番「カムイチカプ」(カムイチカプ交響曲)
吉松隆は、交響曲、協奏曲、器楽曲、室内楽曲など幅広いジャンルの作品を発表しているが(声楽曲はあまり見かけない)、その中でも最高の作品だと思うのは、「朱鷺に寄せる哀歌」と「カムイチカプ交響曲(交響曲第1番)」。

最初の交響曲第1番「カムイチカプ交響曲」の「カムイチカプ」とは、アイヌ語で〈神(カムイ)の鳥(チカプ)〉。
もともと吉松隆はジャンルを問わず、鳥にちなんだ曲を数多く作曲している。「サイバーバード協奏曲」、「デジタルバ-ド組曲」、etc..など、とにかく多い。
なぜか現代音楽の作曲家はなぜか鳥に魅かれるようで、”鳥”にまつわる曲がいくつかある。
有名どころでは、メシアンの「鳥のカタログ」と「異国の鳥たち」。
「異国の鳥たち」は極彩色の南国の鳥のような色彩感の強い曲だった。「鳥のカタログ」はピアノ独奏曲。これは途中で聴くのを挫折した。メシアンのピアノ曲とはことごとく相性が悪い。
フィンランドの作曲家の「カントゥス・アルクティクス<鳥の声と管弦楽のための協奏曲>」。
ストラヴィンスキーは、「火の鳥」にオペラ「ロシニョール」(ナイチンゲールのこと)

「カムイチカプ交響曲」は、調性音楽と無調音楽、クラシックとロックが融合したようなところがあって、「朱鷺によせる哀歌」(1980年)を思い出させるような響きもあちこちで聴こえてくる。
「朱鷺によせる哀歌」より10年後に書かれた初めての交響曲で、コンセプトはかなり壮大だが、そのコンセプトに負けないような作曲者の覇気がこの曲からは感じられる。
この緊張感に満ちた独特の響きと研ぎ澄まされた美しさは、初期からこの頃あたりの吉松作品にしか見出せないような気がする。

「カムイチカプ交響曲」に関する作者自身の解説(DATA-曲目解説)を読むと、

-〈カムイ・チカプ〉は、人間の村の守護神であり、高い樹の枝から人間たちの生と死とをじっと見つめている森の最高神でもある。
-五体(五つの楽章)がある。それは、〈創造〉〈保存〉〈破壊〉〈幻惑〉〈解放〉というシヴァ神の舞踏による五つの宇宙の姿とともに、地・水・火・風・空という仏教における世界観〈五大〉をも模している。
-20代までに書いて破棄したさまざまな自作曲の破片や、20歳代に書いた曲が組み込まれている。

Yoshimatsu: Symphony No1; Ode to Birds and Rainbow Op60Yoshimatsu: Symphony No1; Ode to Birds and Rainbow Op60
(2000/10/24)
Sachio Fujioka , BBC Philharmonic Orchestra

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第1楽章 GROUND 発生し増殖してゆく歪(いびつ)なるもの。
なにか得たいの知れないものが徘徊しているような摩訶不思議な感じが溢れた楽章。徐々に地を這うような太くオドロオドロしいバスの響きが大きくなっていき、威圧するかのように聴こえてる。たしかに”歪な”存在が胎動して、生まれようとするかのような不気味さがある。
それぞれの楽器の響きや旋律が違っていてカラフルだが、それ以上に、まるで目の前で「歪(いびつ)なるものが発生し増殖してゆく」光景が展開されているような、イメージ喚起力の強さがある。
森の神としてシベリウスの「タピオラ」がエコーする。

第2楽章 WATER 古風なる夢を紡ぐ優しきもの。
とにかく安らぎと美しさに満ちた楽章。現れてはすぐに消える弦合奏の柔らかい響き、管楽器(フルート?)の軽やかで鳥のさえずりのような響き、水滴がきらきら輝くようなピアノ、か細くまどろむようなヴァイオリンのソロ。
後半は雪の釧路湿原で鳥たちが休息しているような爽やかさ。最後はオルゴールのような美しい響きの静かなピアノが入ってくるが、なぜか不安げな響きで終わる。

第3楽章 FIRE 破壊しながら疾走する凶暴なるもの。
冒頭からロックのようなビートと旋律で、躍動感とカタルシスを感じさせる。この楽章は管楽器と打楽器がかなり目立つ。ここでエコーしているのは、原始の神としてストラヴィンスキーの「春の祭典」。

第4楽章 AIR 死せるものたちを思う静かなるもの。
弦楽器の哀しく美しい旋律が、前章の”破壊”の後に残された廃墟や消滅していったものへのレクイエムの如く。この美しい静謐な響きを聴くと、すぐに吉松隆の曲だとわかる指紋のようなもの。
ところどころ、アルヴォ・ペルトの音楽に通じるようなところを感じるないこともない。吉松隆はペルトを現代で最高のアダージョ作曲家と言っていたが、彼自身のアダージョの美しさも類稀だと思う。

第5楽章 RAINBOW 虹と光を空に広げる聖なるもの。
冒頭はパーカッションやピアノが、やや遠くから、霞がかかったように聴こえてくる。夢のなかにいるような浮遊感のある響きと旋律。弦合奏や管楽器が入ってきて、色調が明るくなり音の厚みも出て、壮大で開放感で覆われていく。
旋律自体はわかりやすいロマンティックで叙情的なものではなく、いろいろな楽器の音の響きをミニマル風に徐々に重ね合わせてクライマックスへ向かうというつくり。
タイトルどおり、雲に覆われた空が明るく晴れやかにやり、虹の橋が徐々にかかっていくようなイメージが沸いてくる。

何度聴いても、「カムイチカプ交響曲」は吉松作品でも指折りの名曲だと思う。
「プレイアデス舞曲集」は調性音楽らしい調和した美しい旋律で人気があるが、あれは吉松作品の一面。初期の管弦楽作品は、彼の音楽性がエッセンスのように凝集されている傑作が多く、最近の耳に心地良い作品よりも、無調的な響きの残る昔の曲を聴きたくなる。

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クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

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好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

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