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ホルスト/惑星
新年早々に吉松隆の「地球にて」を聴いたので、今日は宇宙まで足を伸ばして、ホルストの「惑星」。

昔はガーディナー指揮フィルハーモニア管のCDを良く聴いていた。
その頃はガーディナーがかなり注目されていた時で、彼のCDをいろいろ集めていて見つけたのがこの「惑星」。グレインジャーの「戦士たち」がカップリングされていて、なぜか面白そうだった。
グレインジャー自体は全く知らない作曲家だけど、タイトルと、とても綺麗な色合いのジャケットデザインに魅かれた気がする。

ホルスト:惑星、他ホルスト:惑星、他
(2008/01/23)
ガーディナー(ジョン・エリオット)

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最初はグレインジャーの「戦士たち」。グレインジャーは、オーストラリア出身の米国の作曲家。
カーディナーは彼の別の作品を後に録音しているので、グレインジャー作品には力を入れていたようだ。
副題に「管弦楽と3台のピアノのための想像上のバレエ音楽」とあるが、色彩感とリズム感豊かで目まぐるしく展開する音楽。
音の厚みがかなりあるが、作曲者が異常なくらいの大規模編成を指定しているためらしい。打楽器の出番も多く、そもそも3台もピアノを入れているところからして普通ではない。
圧倒的な音の洪水に浸りたい人には向いている曲。


次は、ホルストの「惑星」。ガーディナーが古楽オケではなく、現代オケを指揮するのは珍しい。
この曲はカーディナーのこの盤でしか聴いたことがないので比較しようがないが、やはり火星の軍神マルスらしい荒々しさ、木星はスピード感があってダイナミックな演奏。
それ以上に、海王星の幻想的な雰囲気と女性合唱の美しさが一番良かった演奏だった。

惑星には副題がついてるが、ギリシャ・ローマ神話に由来しているらしい。
欧米文化圏に生まれ育ってれば、いわずもがなの基礎的知識なのだろうが、日本は文化圏が違うので、説明つきでないとピンとこないところがある。

水星(マーキュリー):ローマ神話の商業と盗賊の守護神メルクリウス。ギリシャ神話では神々の使者である伝令の神・ヘルメス。
金星(ヴィーナス):美と愛の女神。ローマ神話ではウィーヌス、ギリシャ神話ではアフロディテ。
火星(マーズ):ギリシア神話ではゼウス(木星)とヘラ(=ユーノー、ジュノー:第三番小惑星)の息子で、軍神アレス。ローマ神話のマルス。
木星(ジュピター):ローマ神話の主神ユピテル(ギリシア神話の大神ゼウスに相当する)
土星(サターン):ローマ神話の時の神サトゥルヌス。ギリシア神話では父ウラノスを抑えて天地の支配者の座についた巨神族クロノス。
天王星(ウラノス):ギリシア神話の天空の神ウラノス。クロノス(土星)やタイタン(土星の衛星)など巨神族の父親。
海王星(ネプチューン):ローマ神話での海の神の名前でネプチューン。ギリシア神話では海神ポセイドン。
ついでに、冥王星(プルート):ギリシャ神話で冥界(死者の世界)の王プルート。ギリシャ神話のハーデスの別名・プルトン。
詳しくは、「ギリシャ神話」に書かれている。

「惑星」の楽曲解説
はこちら。とてもわかりやすいので、曲の解説はこれさえ読めば十分。

ちなみに、太陽系に関する天文学的知識については、「天球図でさぐる地球と天体の動き」がビジュアルもあって、わかりやすい。


1.火星 Mars, the Bringer of War
戦争の使者という副題どおり、行進曲風のリズムと圧倒的な音量で迫力十分。なぜか「エイリアン2」のクライマックスの音楽を聴いているような気になってくる。

火星というと、SF小説では、太陽系の惑星のなかで、木星に次いで良く舞台にされる惑星。
水や生命が枯渇してしまった古くて赤茶けた星で、かつては古代文明が存在していたという設定が多い。
それに対して、この曲は、大規模な天変地異か地殻変動でも起こりそうな力強く勇猛果敢な曲。
子供の頃にSF小説愛読者だったので、そのイメージと違う曲想がとても面白く、演奏も緊迫感と高揚感溢れる堂々としたもの。

火星を舞台にしたSF小説は、すぐに思いつくところでは、レイ・ブラッドベリ「火星年代記」、エドモンド・ハミルトン「向こうはどんなところだい?」(『フェッセンデンの宇宙』収録)、SF映画なら「レッド・プラネット」。他にもまだたくさんある。フィクションの中の火星は人間にとって全く苛烈な星。

2.金星 Venus, the Bringer of Peace
愛と美の女神なので、戦争の後には平和が訪れるかのごとく、平穏な雰囲気につつまれた曲。
実際の金星は地表温度は400℃以上という灼熱の星。二酸化硫黄の雲が硫酸の雨を降らせている。

3.水星 Mercury, the Winged Messenger
伝令の神ヘルメスの星なので「翼のある使者」。韋駄天ヘルメスのように、軽やかで舞うような旋律。
実際の水星は、大気がほとんどなく灼熱と極寒の星。太陽に近すぎるために、高温と太陽の引力で探査線も飛ばすに飛ばせられない。太陽に近づきすぎたイカルスは墜落してしまった。

ヘルメスと聞いて、すぐに思い出すのは、浅田彰の音楽・美術評論集の「ヘルメスの音楽」
20年ほど前にフランス現代思想が流行したときに、彼の「逃走論」(スキゾとパラノというフレーズが有名)が話題になったが、「ヘルメスの音楽」では、ポリーニ、グールド、ブーレーズ、ジョン・ケージなどを取り上げている。
随分昔に読んだので、時代が変わった今なら違った目で読めそうなので読み返すのにちょうど良い。

4.木星 Jupiter, the Bringer of Jollity
木星の堂々とした威容は、まさに太陽系の惑星の王様。多くの神話で木星は最高神が司る星。
ローマ神話の主神ユピテルの星のごとく、いつ聴いても優雅さと華やかさと壮大さを兼ね備えた堂々とした曲。「惑星」のなかでも最も人気があるのもよくわかる。
ガーディナーはかなり速いテンポで演奏しているようで、スピード感があって、重厚さよりも威勢の良さの方が優っている。スマートな演奏というところかも。

「快楽をもたらす者」という日本語がついているが、ホルスト自身は、祝典のような儀式的な喜びを表していると言っている。
英国人が「第2の英国国歌」とも讃えるほどの曲は、この「木星」とエルガーの「威風堂々」第1番。どちらも、高貴で堂々とした明るく力強さのある旋律を持っていて、英国国歌の旋律の雰囲気に似たようなところがある。

巨大な質量を持つ木星は重力場が強くて、SF小説では人間はとても立ったり歩いたりはできない(本の中では、重力調整装置の類で調節しているが)。
木星をテーマにしたSF小説は火星よりもずっと多い。なぜかは良くわからないが、滅亡した文明の星よりも舞台設定がしやすいからかもしれない。

5.土星 Saturn, the Bridge of Old Age
サターンの由来であるローマ神話の神は時の神なので、”老い”をもたらす星。西洋占星術でも、保守性や年長者を象徴しているらしい。
木星とは全く違って、わかりにくさのある曲。”老い”や”時間”を音楽で表すというのは難しい。

土星がらみの小説で有名なのは、カート・ヴォネガットの「タイタンの妖女」。ラストのバカバカしい結末はSF的ブラックユーモア。

6.天王星 Uranus, the Magician
冒頭の異様なファンファーレに続いて、どことなく不安定さと不調和を感じさせる旋律が続く。
天王星はなぜか魔術師の星。西洋占星術では凶星らしく、変化(プラス、マイナス両面)を司っているが、異端性、反社会性といった意味もある。

天王星以遠の星は概してイメージが希薄。天王星の変わったところは横だおしの惑星というところ。
他の惑星と違って、天王星の自転軸が天の北極に対して98度も傾いているため、自転軸が公転面とほぼ平行になっている。なぜか天王星の環や衛星の軌道も同じように傾いているという不思議な星である。

7.海王星 Neptune, the Mystic
「神秘なるもの」のタイトルどおり、不可思議な雰囲気のある曲想。西欧占星術でも、海王星は夢、霊性、神秘性を象徴している。
ハープ、弦、チェレスタらしき音色が、夢想の中にいるような感じを出している。後から加わってくる女声合唱の歌声は、幻想的な美しさ。さすがにガーディナーらしく合唱は上手い。
海王星は、火星、木星についで、象徴しているイメージと曲が一致しやすいので、わかりやすく、それにとても美しい曲。

ネプチューンよりも海神ポセイドンの方が馴染みがある。「ポセイドン・アドベンチャー」という映画があったし、バビル二世の3つの下僕の1つは「ポセイドン」だった。


副題が象徴しているものをきちんと考えながら聴くと、好きな火星と木星以外の曲も、それぞれメッセージ性があって面白い。
特に幻想的な海王星はとても印象に残る曲で、よくよく聴いてみると、音楽としてはこの曲が一番繊細で味わいがある。
「惑星」は1914年~1916年に作曲されたが、冥王星が発見されたのは1930年。
冥王星がもっと早くに発見されていれば、ホルストは冥王星の曲も作曲していたはずだったと思うと、それが聴けないのが少し残念。

tag : ホルスト

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こんにちは。

パーシー・グレインジャーには「リンカンシャーの花束」という吹奏楽の古典的名曲があります。いい曲ですよ。
彼の作品はそれだけで「戦士たち」という曲は知りませんでした。

惑星に関しては、カラヤン/ウィーン・フィル盤(1962年)を持っています。こういう類の音楽における、カラヤンのうまさは抜群のものがあると思います。そして聞かせてくれます。

ガーディナーが「惑星」!? 
マリナーが「惑星」をやったときと同じような驚きがあります。
ガーディナーにしては意外性があって良いですよ
こんにちは

グレインジャーは初めて聴いたのですが、「戦士たち」は明るく賑やかでカラフル。とても元気な曲です。吹奏楽用にアレンジした演奏もあります。
http://ml.naxos.jp/album/KCD-11110

「リンカンシャーの花束」は早速ナクソスで聴きましたが、懐かしさを感じさせるような旋律と響きで、とても落ち着いた雰囲気のする曲ですね。

カラヤンの「惑星」は良さそうですね。カラヤンはほとんど(アダージョ、運命、ドイツ・レクイエムくらいしか)聴いてはいませんが、音楽のつくり方から考えると近現代ものは合っている気がします。
カルショーの自伝を読むとカラヤンが頻繁に登場しますが、オペラはかなり良いように感じました。(私はオペラは聴かないのでよくはわかりませんが...)

ガーディナーのレパートリーでも、「惑星」はかなりレアものかもしれません。
想像するに大音響で重たい「惑星」よりは、スピード感があってスマートな感じのするガーディナーの「惑星」が好きで、特に合唱はさすがに上手いかったです。
聴いてみてください
こんにちは。

ぼくは車の中で、「火星-戦争をもたらす者」  「金星-平和をもたらす者」        「水星-翼のある使者」 「木星-歓喜をもたらす者」 「土星-老いをもたらす者」     「天王星-魔術師」 「海王星-神秘主義者」 を聴いたことがよくありますよ。

後もう一つはコリン・マシューズさんが追加作曲した、
「冥王星-再生をもたらすもの」を聴いたことあります。

自分では「冥王星-再生をもたらすもの」があんまりしられてないように
感じますけど・・・。

ついでに「冥王星-再生をもたらすもの」の曲が聴けるHPがあります!
「にこ★サウンド#」と言うHPです。

聴いてみてくださいね。オーケストラ版です。
http://nicosound.anyap.info/sound/sm3469293


もし自分が組曲「惑星」に追加作曲するなら、
「地球-命をもたらす者」かな、、。。
さいはての惑星
ルーク様、こんにちは。コメントありがとうございます。

冥王星はSFだと、不気味な辺境の惑星のような設定で、そもそも名前がプルート(冥府の王)なので、墓場のようなくらいイメージがします。

「冥王星-再生をもたらすもの」は、ホルスト自身の作曲ではないので、演奏されることが少ないし、CDには大抵入っていませんから、知っている人は多くはないと思います。
教えていただいたニコニコ動画での演奏音声を聴きましたが、やっぱり得体の知れない雰囲気がします。オドロオドロしいですね~。

そういえば、「地球」が入っていませんね。このまま温暖化が進んで、現存している生命が死に絶えることがなければ、誰かが作曲するかもしれませんね。
その頃は準惑星に?
ぼくもそう思いますよ。
でも冥王星を追加作曲したコリン・マシューズさんはまだ亡くなっていない   から、もしかしたら作るかもしれませんね。

そういえばマシューズさんが冥王星を追加作曲した頃は
冥王星は準惑星になっていたのでしょうか?



冥王星はやっぱり太陽系第9惑星のイメージなんですが
ルーク様、こんにちは。

2006年に冥王星が惑星から除外されたので、作曲時(2000年)の時には、まだ惑星でした。
惑星から外されてしまったので、これからも「冥王星」が演奏されることは少ないでしょうね。

子供の頃に覚えた太陽系の惑星配列「水金地火木土天海冥」(すいきんちかもくどてんかいめい)の最後の「冥」がなくなると、ゴロが悪いですね。
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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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