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フィルクスニー ~ ドヴォルザーク/ピアノ協奏曲
昨年は、いままであまり聴かなかった地域の作曲家の作品いろいろ聴いていて、東欧圏ではバルトークとチェコの作曲家とかなり相性が良い。
特にチェコの作曲家は、スークの録音を集めたり、マルティヌーのメモリアルイヤーだったりしたので、昔から聴いていたヤナーチェクも合わせて、新しい曲もかなり聴いたし、他にも、スーク、スメタナ、フィビヒ、ノヴァークなど聴きたい作品が結構あるので、今年もチェコの音楽を聴くことが多くなりそう。

ピアノ協奏曲のなかでは、好みにあったのはマルティヌーとドヴォルザーク。
マルティヌーは他の曲もそれほど聴かれている方ではないし、ドヴォルザークの方はヴァイオリン協奏曲やチェロ協奏曲に比べて、ピアノ協奏曲はさほど有名ではなく、名だたるロマン派のピアノ協奏曲の名曲の影に隠れてしまっている。
ドヴォルザークやチェコの作曲家の作品は、初めて聴くならチェコのピアニストで聴くのが良さそうに思えるので、ヤナーチェクのピアノ曲でよく聴いていたフィルクスニーの演奏で。
リヒテル&クライバーの録音は有名らしいけれど、リヒテル自身が”慎重になりすぎた窮屈な演奏”と自己批評していた。評判はわりと良いので悪くないんでしょうが、フィルクスニーのピアノを先に聴いていたので、それと比べると、少し無愛想でメカニカルなタッチに感じるところが結構あって、硬いというか、潤いがない気がする。”窮屈な”(原文はどういう言葉かわからない)と言われればそういう感じ。

1912年生まれのフィルスクニーが5歳の時、その演奏を初めて聴いたヤナーチェクは「百年にひとり現れるかどうかわからない才能だ」と言ったという。
フィルスクニーの師はヤナーチェクのほかに、ピアノのクルツ、シュナーベルに、作曲のスーク。プラハで10歳の時にピアニストとしてデビューし、20歳にならないうちに東欧を中心に有名になったが、1941年に米国に亡命。チェコの作曲家(ドヴォルザーク、スメタナ、ヤナーチェク、マルティヌーなど)の作品を得意としていた。

 フィルクスニー&セル指揮クリーブランド管(NAXOS Classical Archives)
ドヴォルザークのピアノ協奏曲は、フィルクスニーが1954年にセル指揮クリーブランド管の伴奏で録音しているが、NAXOS Classical Archivesの音源はCD化されていなくて、NMLで聴くかダウンロード販売。(PB音源らしく、探せばフリーのストリーミングサイトが見つかりますが)
フィルクスニーはこの曲を得意にしていて、生涯に5度くらいは録音しているが、オケ・パートの強靭さではこのセルとの共演盤が一番らしい。
たしかにセルらしく、速めのテンポでキビキビとしてシャープで淀みなく流れていて、リズム感もよく盛り上がりも力強く、メリハリがよくきいている。
フィルクスニーのタッチもオケに呼応するように、ややテヌート気味で力強いフォルテがよく効いていて、後年の録音に比べてかなりダイナミックな感じ。
全体的に緊迫感のある引き締まった雰囲気で、叙情感も強く出ているけれど、叙情表現にちょっと粘り気があるところが時々あって、後年のしなやかに流れるような表現とは少し違う感じはする。
音がやや古めかしいのが難点ではあるけれど年代のわりにはクリアで響きにも厚みがあって、これでも充分聴ける。

デイヴィッド・デュバルの『ピアニストとのひととき』という本のなかで、フィルスクニーがセルとのエピソードについて話している。
ヒトラーが政権を掌握した後、シュナーベルはドイツを離れてイタリアで教えていたらしく、フィルクスニーはそのシュナーベルに師事することにした。そこでジョージ・セルと会ったというが、ほとんど話すこともなく別れた後で、セルから電話があって、ヴォルザークのピアノ協奏曲のソリストを依頼された。驚いたフィルクスニーは、自分の演奏を一度も聴いたことのないのにと、セルに理由を尋ねると、シュナーベルからフィルスクニーのことは聞いているので、その話だけで充分、と何とも割り切った回答。
セルは演奏家の才能を見抜く能力は高かったらしいから、シュナーベルの話なら間違いはないと思ったようだ。
フィルクスニーは優れたピアニストだったが人柄も温厚だったせいか、セルとは相性が良かったらしく、友人にもなった。セルから演奏解釈について、彼の考えを押し付けられるようなことは一度もなかったという。

Dvorák Concertos (Complete)ドヴォルザーク:ピアノ協奏曲 ト短調/リスト:ピアノ協奏曲第2番/ウェーバー:コンツェルトシュテュック ヘ短調(1952, 1954)

Rudolf Firkusny,George Szell ,Cleveland Orchestra

試聴する(NAXOSサイト)
このアルバムはLPのみでCDでは出回っていないらしく、ストリーミングまたはダウンロード販売専用です。

 フィルクスニー&ジュスキント指揮セントルイス響(Brilliant Classics)
ワルター・ジュスキント指揮セントルイス交響楽団と1975年に録音した盤は、60歳くらいのフィルクスニーのしっかりしたテクニックで聴ける。
やっぱり音質がずっと良いので、フィルクスニーのピアノの音が瑞々しくて綺麗。(リマスタリングのせいか、少し響きが人工的な感じがしないでもないけれど)
セルとの録音と比べて、力感が緩くしなやかなタッチ。オケも勇壮ではあるけれど、セルほど強靭でシャープではないので(シンフォニックな響きでちょっと大味)、やっぱりセルとフィルクスニーの演奏を聴いてしまうと物足りなく思える。

Dvorák Concertos (Complete)Dvorák Concertos (Complete)
(2002/06/25)
Zara Nelsova, Rudolf Firkusny, Ruggiero Ricci, Walter Süsskind, Orchestra: Saint Louis Symphony Orchestra

試聴する(米国amazon)[DISC1]


 フィルクスニー&ノイマン指揮チェコフィル(BMG)
フィルスクニーがこの曲を最後にスタジオ録音したのは、1990年のノイマン/チェコフィル盤。
このCDはヤナーチェクのピアノ&管弦楽曲とドヴォルザークのピアノ五重奏曲2曲も収録されていて、カップリングが充実している。
フィルクスニーはチェコ民主化後、母国で公開演奏や録音をするようになり、フィルクスニーが80歳前後にスークやノイマンとかと共演したCDやDVDなど、数種類の録音がリリースされている。

このピアノ協奏曲は高齢の時に録音したものなので、それほど力感が強くないし速いテンポになると指回りがもたっとしているところもあるけれど、それほど気になるほどでもなく、音楽の流れが滑らかでしっとりとした叙情が流れるドヴォルザーク。この曲ってこんなに綺麗な曲だった?と思い直してしまった。
フィルクスニー独特のちょっと甘くて可愛らしいリリカルな音色は、高齢になっても全く変わっていない。ピアノに品があって、特に高音の美しさは格別。
チェコフィルの響きもとても美しく、流麗で叙情感の強い伴奏がフィルクスニーのピアノの響きととてもよく似合っている。
この協奏曲はピアノがオケに埋もれがちと言われてオケの方が目立つけれど、この録音ではオケがフィルスクニーのピアノに寄り添うように合わせている感じで(それにピアノが良く聴こえるように録音しているし)、ピアノとオケのバランスがちょうど良い。3種類聴いたなかでは、一番音が綺麗で自然な感じの録音なので、これをよく聴いている。

Piano Concerto/Quintets for Piano/ConcertinoPiano Concerto/Quintets for Piano/Concertino
(2002/05/30)
Rudolf Firkusny (piano), Orchestre philharmonique tchèque , Vaclav Neumann (direction) ,et al.

商品詳細を見る


ノイマンの指揮ではないけれど、ビエロフラーヴェク指揮チェコフィルと1992年にライブ録音したDVDのプロモーション映像もあり。
Piano & Cello Concerto [DVD] [Import]Piano & Cello Concerto [DVD] [Import]
(2007/01/30)
Gustav Rivinius(cello), Rudolf Firkušný(piano), Václav Neumann (director), Jiří Bělohlávek (director), Czech Philharmonic Orchestra

試聴する(YoutubeのSP映像)



フィルスクニーのピアノでドヴォルザークのピアノ協奏曲を聴くなら、好みとしては、音はあまり良くないけれどセル&クリーブランドの伴奏で力強くて切れの良いテクニックが爽快な40歳頃の録音か、ノイマン&チェコフィルの伴奏でしっとりと細やかな叙情感が綺麗な晩年の録音かのどちらか。
この2種類の録音は、オケとピアノとも方向性が正反対の如く違っているけれど、それぞれの持ち味の違いが面白く、どちらの方が良いとも言い難い。


 ピアノ協奏曲 ト短調 Op.33 [Wikiの楽曲解説]

第1楽章 Allegro agitato
冒頭からドラマティックで憂愁漂うとても美しい旋律が流れるトゥッティ。
3度重音で徐々に駆け上がってくるピアノがユニゾンのアルペジオで下降する序奏は何かの予感に満ちたようで、その後にスラスラと水が流れるような流麗なアルペジオにのせて弾く主題の旋律がとてもメロディアスで美しい。
主題はすっきりとしたシンプルな旋律だけれど、とても印象的。それが次々と変奏されていて、これが叙情的な美しい旋律だったり、力強くドラマティックだったりと、ヴァリエーション豊かで、副主題や第2主題も挿入されていて、17分あまりのちょっと長めの演奏時間でも全然飽きずに聴ける。
この楽章はスケールとアルペジオを主体で、楽譜を見た目にはそれほど技巧的で凝ったようには見えないが、アルペジオの開きも大きいし、重音・和音進行や細かいパッセージのスケールが詰め込まれているので、これを速いテンポで弾くととてもピアニスティックで華麗な曲に聴こえる。
やや合奏協奏曲的で、ピアノが前面に出るというよりもオケと協奏しているようなところがあるが、盛り上がるところは和音主体で力強くて、意外にかなりドラマティックな第1楽章。
フィルクスニーは特に高音の響きが綺麗で、可憐で上品でとてもリリカルな響きが素晴らしく美しい。フォルテでもパワフルで派手に弾いてはいないので、白熱感はさほど強くないが、浮ついたところのない落ち着きがあって安心して聴ける。特に、この楽章は高音域で引く部分がとても多いので、フィルクスニーの美しい響きと相まって、旋律や和声の美しさが引き立っている。

第2楽章 Andante sostenuto
冒頭の深い響きのホルンから、ピアノ、弦楽と順に引き継がれていく旋律が、パストラルのようにのどか。
ピアノはアルペジオ主体の伴奏にのせて弾く高音のパッセージがとても美しい。
両端楽章の印象が強いので、この緩徐楽章の旋律自体はそれほど印象的ではないけれど、この楽章で一番良いのは、フィルクスニーの綺麗な高音の響きがしっかり聴けるところ。

第3楽章 Finale: Allegro con fuoco
冒頭のピアノで弾く主題が、舞曲風でちょっと調子ハズレのような響きで面白い。この冒頭の主題が途中で何度か、緩徐楽章のようにゆったりと叙情たっぷりな旋律に変奏されている。
40小節目からピアノソロが弾く主題は、とても装飾音と付点のついたとてもリズミカルな旋律。いかにもドヴォルザークらしい雰囲気がする。この旋律は躍動感があってとても華やか。
オケの伴奏が力強さをやや押さえ気味で、主題を弾くピアノがわりと目立っているし、緩徐部分はピアノが叙情的な旋律をしっとりと歌っているので、ピアノ協奏曲的な雰囲気になっている気がする。

ピアノ・ソロがあまり目立ったないとはいえ、ピアノ独奏付き交響曲とでも思えば、さほど独奏部分が目立たなくても気にならない。
緩徐楽章はあまり印象が残らなかったけれど(ピアノの音はとっても綺麗だった)、両端楽章は旋律の美しさと変奏の面白さで聴きごたえは充分。
特に第1楽章はロマンティックな華やかさがあって、力強さもありドラマティックな展開でとても魅力的。ロマン派のピアノ協奏曲らしくて、もっと聴かれても良い曲だと思う。



ピアノ協奏曲の楽譜(2台のピアノ用)[IMSLP]
この曲の楽譜を探すとIMSLPにはスコアが登録されていなくて、2台のピアノ用の楽譜が登録されている。
この楽譜が少し変わっていて、普通は第1ピアノ(ピアノ・ソロ)と第2ピアノ(オケパート)の2段構成なのに、これは3段構成で上段2段がピアノ・ソロパート。
このソロパートは、上がドヴォルザークの原曲版、下がチェコのピアニスト・クルツの編曲版。(スコアもピアノパートが2種類記載されている版があるらしい。)
クルツが有名なのは、ピアニストとしてではなく、この編曲者としてというほどに、スタンダード化しているという。[クルツのプロフィール(Wikipedia)]
クルツ版は、重音の音の数を増やして和音にしたり、3度の開きの音で移動するところをアルペジオにしたり、跳躍の幅を広げたりと、響きが華やかになるが、ややテクニック的に難しくなり、パワーもいるところがある。

Wikipediaでは、クルツの弟子であるフィルクスニーは原典版とクルツ版を元にした独自の版を弾いていると書いている。
たしかに、楽譜を見ながらフィルクスニーの演奏を聴くと、原典版とクルツ版で違うところは、より響きが華やかでダイナミックに聴こえるクルツ版の方を主に弾いているのはわかる。
たまに原典版を弾いているようなところもあるので、2つの版を組み合わせているのかもしれない。少なくともクルツ版主体に弾いているのは確か。原典版で弾いている演奏よりも、いくぶん華やかでドラマティックに聴こえるとは思う。

tag : フィルスクニー ドヴォルザーク

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NoTitle
こんばんは。
フィルクスニーとノイマン、ご紹介のCDを聴いています。個人的にこの曲のイチオシです。じつにしなやかな演奏ですね。
リヒテルとクライバーのは世評は高いですが、録音がモコモコしているうえに、ふたりともいまひとつ覇気がないような気がしました。
80歳近いとは思えないくらい素敵なピアノです
吉田様、こんばんは。
コメントありがとうございます。

おっしゃるとおり、本当に素敵な演奏ですね。フィルクスニーは音がとても綺麗で、好きなピアニストの一人です。
セルとの録音もそれはそれで好きなのですが、ノイマン&チェコフィルの流麗な伴奏とフィルクスニーのピアノが自然に調和していて、うっとりしてしまいます。

リヒテルの伝記を読むと、彼は録音をちゃんと自己批評していて、このコンチェルトの演奏には満足していませんでした。本人がそういうだけあって、やっぱりパッとしませんね。シューマンのピアノ協奏曲も同様です。
反対にグリーグのピアノ協奏曲は大満足していましたし、さすがにこれは素晴らしく良い演奏だと思います。
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yoshimi

Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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