カッチェン ~ ラフマニノフ/ピアノ協奏曲第2番 (2)ショルティ指揮ロンドン響盤 

2009, 01. 23 (Fri) 20:08

カッチェンは、ラフマニノフのピアノ協奏曲第2番をフィストゥラーリの指揮以外で、シェルティ指揮ロンドン交響楽団(1958年)、クーベリック指揮ロイヤル・コンセルトへボウ管弦楽団(1951年、ライブ)の伴奏でも弾いている。
クーベリックの方はライブ録音。コンセルトへボウ・アンソロジーのBOXセットに収録されている。分売盤が出たら聴けるんだけど。いろいろ調べてみると、ショルティ盤にかなり似ているところのある演奏らしい。多分、かなり若い頃に弾いていただけに、クーベリック盤の方がずっと筋肉質的で叙情性が薄い演奏だと思う。

ショルティ指揮ロンドン交響楽団との共演盤は1958年の録音で、1951年のフィストゥラーリ盤よりもはるかに音が良くて聴きやすい。
ショルティの指揮なので想像していたとはいえ、(それに巷の評判はあまりよろしくはないらしいが)独特の味がある。
最初聴いたときは、なんだこのラフマニノフは!と思いはすれど、何度も聴けば耳も慣れてきて、これはこれで面白いかもと思えてくるのが不思議。

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番)
(2013/5/15)
ジュリアス・カッチェン(ピアノ),サー・ゲオルグ・ショルティ指揮ロンドン交響楽団,エイドリアン・ボールト指揮ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団

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このスタジオ録音では、カッチェンのピアノが前面に出ている時はピアノが繊細にしっとりとした叙情を歌うかと思えば、突如としてピアノとオケがラフマニノフ的なロシアの憂愁などはものともせず猛スピードで突進して、情感を歌う間もなく吹き飛ばして疾走する。
スピード感と力感は抜群。まとわりつくような情念がなくて、これはこれでストレートでわかりやすく、聴きやすい。ただし激しく好みが分かれる種類の演奏ではある。
オーケストラの伴奏は、速いテンポと大音量で演奏するところは勢いがあり切れ味もよいが、繊細さにはやや欠ける。弦楽はそれほど悪くはないと思うが、金管パートはちょっと荒っぽいかも(あれだけのスピードなので仕方がないか...)。
そもそもピアニストにかなりの技巧と腕力・体力がないと、こういう異常なスピード感と力感のあるラフマニノフは弾けない。とにかくカッチェンの指回りの良さと力強さは抜群。

第1楽章は重く力感のあるピアノで始まり、オケも響きも適度な厚みがあって、まずはそつない出だし。ホルンの音がよく響いているが、全編を通じて伴奏はやたらに金管の音が大きくてよく聴こえる。
しばらくはピアノも力強いタッチと弱音を混ぜ合わせながら詩情があって美しいが、この後から徐々にピアノが加速していき、オケもそれに合わせてテンポを上げていく。ピアノはテンポがどんなに速くなろうが、打鍵に曖昧さはなく力強く鋭い。この楽章はピアノ・オケとも、まだしも控えめに突進して終える。

第2楽章は、ピアノがしっとりと情感を歌っていて、弱音もはかなげで美しい。
といっても硬質のタッチは鋭く透明感もあり、速めのテンポで歯切れ良さがある。強弱のメリハリは強くつけているが、べったりした情念を感じさせることはない。
線の細い繊細さではなく、ダイナミックで引き締まった美しさがあって、この楽章はなかなか良い。

第3楽章は、冒頭からオケが盛大に鳴り、ピアノのアルペジオも輝くように華麗。序盤はそれほどテンポを上げてはいないが、4分を過ぎたあたりから、ピアノがやっぱり急激に加速していき、オケもそれに合わせてテンポが上がっていく。
ピアノの速さにさすがのトランペットも遅れ気味。これだけ速く演奏するのは大変だろうなあと思いながら聴いていたら、オケもピアノもテンポを落とす気配は全くない。(さらに加速しているような気がする)。
ところどころ柔らかいタッチと透明感のある響きで、ピアノがしっとり叙情的な旋律を弾いているし、サビの有名な旋律をとてもロマンティックに弾いているのが美しい。ここは本当に綺麗に弾いてます。
しかし、そこを過ぎると再び猪突猛進の如くバリバリと突き進んでゆき、力強く盛り上がったままクライマックスへ。オケの大音量にも負けず、カッチェンのピアノは力強く明瞭なタッチで、実に男性的でダイナミックな演奏。
ここまで徹底していると、ラフマニノフの演奏として良いか悪いかはさておいて、快感を覚えるくらいに圧倒的な疾走感と力強さと迫力がある。

フィストゥラーリ盤を聴きなおすと、やはりこちらもかなり速いテンポ。
あちこちでピアノが突進するように加速しているが、繊細な叙情的演奏が持ち前の指揮者とオケが節度をもってピアノに合わせている(暴走しかけるピアノをうまくコントロールしているのかも)ので、詩情が吹き飛ばされる前に、力強さと叙情が拮抗している緊張感と白熱感がある。(良い演奏なのに、録音が古くて音質が悪いのがとても惜しい。)

ショルティ盤になると、指揮者とオケがピアノをひっぱって加速しているところもあるけれど、もともと突進するのが止まらないピアニストと、切れ味鋭い指揮者(とオケ)との波長がぴったりと合っている。
白熱する第3楽章では、指揮者(とオケ)の割り切りもよく、カーレースのようなスピード感にシンフォニックな迫力と豪快さで押している。
ただし、この後でラフマニノフの自作自演盤を聴くとこれがまた速いこと(わりとあっさりした弾き方をしてはいるけど)。カッチェンが突進していくスピードが異常に速いとまでは言えないとしても、それでも他のピアニストに比べれば、かなり速い。

この演奏にはある種のカタルシスめいたものを感じるけれど、”ラフマニノフらしい”叙情性と趣きを求める人には向いていない。こういう演奏もありえるのだろうと割り切って聴けば、実に個性的ともいえる面白さはある。
カッチェンが叙情的に歌っているところも随所にあってそこはとても美しく、これだけヒートアップして弾いているのを聴くのは結構スリルがあって意外と楽しめる。何度も聴いていると、この猛スピードが標準になってしまって、感覚が狂ってきた気がする。
人にはあえて勧めようとは思わないタイプの演奏だけれど、ロシア的粘着性や情念過多な演奏が苦手な人や、ショルティの指揮が好きな人なら、結構気に入るかもしれません。

 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

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