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《The Art of Julius Katchen》より ~ モーツァルト/ピアノ協奏曲集
カッチェンが録音に残した数少ないモーツァルトのピアノ協奏曲は、第13番、第20番、第25番。第23番はライブ録音が残っている。
第13番は1955年(カッチェンが29歳の頃)、第20番と第25番は1967年の録音で、この12年の差で弾き方が全く変わっているところが面白い。
第20番はカッチェンがわずか11歳の時に初めて公開演奏会で弾いたコンチェルト。そのわりには録音したのが40歳になってから。技術的に達者だったせいか、メインのレパートリーに入っていなかったようだ。ブラームスの第1コンチェルトのライブで、アンコールに第2楽章を弾いた録音が残っているが、それはそれはとても美しい演奏だった。

The Art of Julius Katchen, Vol. 2The Art of Julius Katchen, Vol. 2
(2004/01/12)
Ludwig van Beethoven、


第13番は、ペーター・マーク指揮ロンドン新交響楽団。第20番と第25番はカール・ミュンヒンガー指揮シュトゥットガルト室内管弦楽団。いずれもモーツァルト演奏では定評のある指揮者(らしい)。

第13番は、この頃に録音したモーツァルトのピアノ・ソナタと同じような、しっかりした強めのタッチで骨格のはっきりした演奏。毅然とした芯の強さと力強さを感じさせるので、まるでベートーヴェンの初期のピアノコンチェルトでも聴いているような気がしてくる。
モノラル録音なので音に古さを感じはするが、躍動感が結構伝わってくる。
このときの演奏は、カッチェンが弾きたいと思うモーツァルトを弾いていたような自由さがある。伴奏もピアニストに合わせているような気がするが、もともとモーツァルトはほとんど聴かないし、指揮者のペーター・マークの演奏を聴いたことがないので、よくはわからない。
ビロードのように滑らなタッチで流麗なモーツァルトはすぐ飽きてしまうので、これくらいきっぱりした弾き方の方が好みにあっていてずっと良い。

第20番と第25番は、カッチェンの晩年(といってもピークに向かっていたころ)の頃の演奏。この録音の前にブラームス全集やベートーヴェンの協奏曲全集を完成させているので、第13番を録音した頃に比べて、タッチや響きがとても柔らかく、表現が繊細になっている。

第20番は、硬質な音色ではあるが響きに丸みと柔らかさがあり、力強さは抑えられている。特に、高音部は、やや翳りをおびた澄んだ響きの弱音がとても美しい。
といっても、打鍵の鋭さや音の粒立ちの良さは変わらないので、引き締まった雰囲気がある。流麗というよりは、少し硬さを感じさせるが、端正で理知的な感じの演奏。弱音を多用しているので、全体的に翳りが濃い。
伴奏も室内オーケストラのせいか、いつものフルオーケストラで聴くのとは違って、音の厚みが薄くて軽やかな響きで、煌びやかさがあまりないが、逆に透明感と品の良さがある。
オケの伴奏で弾いていると、ピアノが伴奏に合わすようにやや控えめなところを感じるけれど、カデンツァとなるとカッチェンらしく強弱のコントラストを鮮やかにつけ、ドラマティックな面を強調したり、響きを長く重ねて華麗さも出している。
特に第2楽章は、柔らかな丸みのある響きの音が映え、囁くような弱音が儚げ。光と影の交錯するような彫りの深さもあって、とても美しい。多分、録音したモーツァルトのコンチェルトの中で、最も美しく弾いている楽章だと思う。

全体を通して聴くと、カッチェンにしては弱音域主体のかなり抑制的な表現で、ピアノ協奏曲にしてはそれほどピアノが前面に出てこず、いわゆる”室内楽的な演奏”とでもいうようなコンチェルト。
ピアノの音がややこもりがちの響きなので、余計にそう感じるのかもしれないが、室内オーケストラとのバランスからいえば、こういう弾き方で良いのかもしれない。どちらにせよ、気品のある端正な演奏であるには違いない。

第25番はよりシンフォニックな曲だが、20番、23番、24番くらいしか聴かないので、この曲はほとんど聴いたことがない。
第1楽章は長調でかなり明るめの曲想だと思うけれど、柔らかいタッチと弱音を多用しているので、そこはかとない物悲しさや翳りを感じさせる。弱音の響きが柔らかく表現も抑制的なので、とても品の良い美しさがある。
こういう弾き方をする曲なのかもしれないが、もっと強弱のコントラストをつけて明るめの色調で弾いても良いような曲想だという気がしないでもない。
第1楽章のカデンツァ(これはカッチェン自作)になると、ピアノは表情をいろいろを変えながら、ずっと自由に弾いている。
第3楽章になるとテンポが速くなり、ピアノのタッチも歯切れ良くて表現も明快。とても軽やかな躍動感が出ていて、今までよりはずっと生き生きと伸びやか。

第20番と第25番はカッチェンにしては、表現が抑制ぎみで控えめさを感じさせる演奏。
20歳代終わりに録音した第13番は、若々しい生気と躍動感に溢れていたが、録音したときの年齢の違いで弾き方も変わるのだろうけど(後年になると、特に弱音の響きを生かした弾き方に変わっている)、指揮者やオケとの相性やバランスもかなり影響している気はする。

カップリングされているベートーヴェンのピアノ協奏曲第4番と合唱幻想曲は素晴らしい出来。
特に第4番は、優しさと深い哀しさをたたえた叙情が美しく、凛とした気品のある演奏で、カッチェンの弾くモーツァルトも悪くはないけれど、それよりもベートーヴェンの方が良く似合っている。

[2011.9.24 追記]
久しぶりに聴き直してみたところ、録音方法のせいか、ピアノの音がオーケストラに比較して小さすぎて、かなり聴きづらい。特にフォルテで協奏するところは、ピアノがかき消されがちなところがかなり気になる。
カデンツァでは、いくぶん自分の思い通りに弾いているような感じはするけれど、それ以外の部分は指揮者(とオケ)に抑えられているような感じがして、ソリスト独自の解釈や個性的な部分があまり出ていない気はする。
儚く消えてしまいそうな蒸留水みたいなソロの演奏なので、そういう解釈かもしれないけれど、演奏会のアンコールで弾いていた20番の第2楽章のライブ録音では、弱音主体であっても、オケに負けることなく、彼が弾きたいモーツァルトを弾いていた。やっぱり指揮者との相性の問題じゃないかと思ってしまう。


 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ


<収録曲>
ベートーヴェン:
ピアノ協奏曲 第4番 ト長調 作品58(1963年録音)
合唱幻想曲 ハ短調 作品80(1965年録音)
(ピエロ・ガンバ指揮ロンドン交響楽団・合唱団)

モーツァルト:
ピアノ協奏曲 第13番 ハ長調 K.415(1955年録音)
(ペーター・マーク指揮ロンドン新交響楽団)

ピアノ協奏曲 第20番 ニ短調 K.466(1967年録音)
ピアノ協奏曲 第25番 ハ長調 K.503(1967年録音)
(カール・ミュンヒンガー指揮シュトゥットガルト室内管弦楽団)

ピアノ・ソナタ 第11番 イ長調 K.331(1957年録音)

tag : カッチェン モーツァルト

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Author:yoshimi
<プロフィール>
クラシック音楽に本と絵・写真に囲まれて気ままに暮らす日々。

好きな作曲家:ベートーヴェン、ブラームス、バッハ、リスト。主に聴くのは、ピアノ独奏曲とピアノ協奏曲、ピアノの入った室内楽曲(ヴァイオリンソナタ、チェロソナタ、ピアノ三重奏曲など)。

好きなピアニスト:カッチェン、レーゼル、ハフ、コロリオフ、フィオレンティーノ、パーチェ、デュシャーブル、アラウ

好きなヴァイオリニスト:F.P.ツィンマーマン、スーク

好きなジャズピアニスト:バイラーク、若かりし頃の大西順子、メルドー(ソロのみ)、エヴァンス

好きな作家;太宰治、菊池寛、芥川龍之介、吉村昭、ハルバースタム、アーサー・ヘイリー
好きな画家;クリムト、オキーフ、池田遙邨、有元利夫
好きな写真家:アーウィット

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