カッチェン《ブラームス:ピアノ作品全集》より (4)2つのラプソディ Op.79 

2009, 02. 07 (Sat) 20:07

<2つのラプソディ>はずっとルプーの演奏を聴いてきたので、その音と雰囲気に馴染んでいる。
聴くのはほとんど第1曲のみ。ペライアとグールドも聴いたことはあるが、やはりルプーのラプソディは一番すんなりと入ってくる。(聴き比べた時の記録記事はこちら)

新しく入手したカッチェンのブラームス・ピアノ作品全集にも、当然2つのラプソディの演奏が入っている。この全集は全部で6CD。バリエーションとピアノ・ソナタ、バラードが全部揃っているし、ワルツや小品集、ハンガリー舞曲(独奏&連弾)など、ほとんどのピアノ曲が入っているなかなか充実した内容の全集。
今良く売れている(と思う)オピッツとレーゼルの全集よりも、かなり割高感があるというのが難点ではある。古い音源なのだからDECCAも廉価盤を出せば良いのに、2CDの抜粋盤しか出していないのは本当に困ったものだ。

Brahms: Works for Solo PianoBrahms: Works for Solo Piano
(1997/11/11)
Julius Katchen

試聴ファイル


いつも聴いているルプーのラプソディはとても流麗。少しもやのかかったような響きがして柔らかく包み込むような雰囲気があり、テンポや強弱はそれほど大きくは変化させずに弾く。

カッチェンは冒頭からやや速めのテンポで、クレッシェンドの盛り上がりも大きく、勢いのあるかなり起伏の激しい演奏。左手の低音が良く響いていて重心は低い。音色や響きはクリアで、残響もそれほど長くは残していないので、明晰さがある。
途中、一転して消えそうな弱音で弾いたかと思うと、すぐに激しいフォルテの和音に変わったりという、なかなかドラマティックで激情があちこちで噴出している演奏。

ルプーの演奏に慣れていると、カッチェンのラプソディは、激しさのある荒々しいラプソディ(タイトルが”狂詩曲”なのでそれもそうだけど)に聴こえるが、展開部に入ると全く180度変わる。
柔らかく弱々しげな弱音で、感情の微妙な揺れを表現するかのように、テンポを細かく揺らしながら弾いている。ここはルプー以上に繊細さを感じさせる表現。この変化が面白い。
展開部は、ルプーだと安息感を強く感じたが、カッチェンの場合は、何かが起こりそうな予感や何かに対する憧れのようなニュアンスを感じる。
展開部の弾き方はルプーの方が流れが自然な感じがしたが、何度も聴いているとカッチェンの弾き方も、彼の音楽の作り方から言えば違和感がなくなってくる。ささやくような密やかさで弱音を弾くので、まるで内面へと沈潜しているような感じがする。主題部の激しさとのコントラストが明瞭。

第2曲は、第1曲よりも旋律の流れが単調なつくりなので、あまり聴くことがない曲。自分で弾くのも弾いていて面白さを感じる第1曲がほとんど。
ルプーの演奏には、表情を細かくつけているが音楽の流れが途切れないような滑らかさや流麗さがある。
カッチェンは速めのテンポで、打鍵も鋭く力強さがある。アクセントも明瞭、強弱やテンポを細かく揺らして起伏が多く、やっぱりこの曲もルプーよりもドラマティック。
もとから変化に乏しい第2曲の方は、これくらいのテンポの速さとメリハリをつけた方がずっと表情が出て、聴きやすい。

二人の録音を聴いていると、好きなのは第1番がルプー、第2番がカッチェン。


Brahms - Julius Katchen - 2 Rhapsodies, Op 79



ついでにグールドの第2曲の演奏も聴いてみたが、テンポは遅く、レガートとノンレガートをとりまぜながら弾いている。演奏自体は起伏に乏しく平板ではある。
音楽の作りがルプーやカッチェンとは全然違っていて、タッチや音の響き、旋律の浮かび上がらせ方に独特のものがあって、これはこれで面白くはある。
あくまでもグールドの弾き方の面白さを味わうのであって、ブラームスらしい趣を味わったという気がしないところが難点。グールドの演奏自体は面白くて、グールドが好きな人や、解釈に妙味のあるラプソディが聴きたい人には向いていると思う。
バラードやラプソディは1982年の晩年の録音。これに比べて、1962年録音の間奏曲集の方は、クールではあるが至極まともな(奇をてらわないというか)演奏に感じる。グールドが弾くブラームスのなかで、間奏曲集だけは何のひっかかりもなくすんなりと聴ける。

カッチェンとルプーの弾くブラームスは、ブラームス特有の構造的重みとにじみでる詩情がほどよくバランスされていて、個人的には一番安心して聴ける演奏。

 『ジュリアス・カッチェンにまつわるお話』

 ジュリアス・カッチェンのディスコグラフィ

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